クラウド会計ソフトを提供するfreeeは9月20日、五反田から大崎へ拡大移転した東京本社オフィスを報道関係者向けに公開した。新オフィスは、「アートヴィレッジ大崎セントラルタワー」の18階~21階。面積は旧オフィスの約2倍(3462坪)で、ワンフロアに社員が集約するように、フロア数を8.5フロアから4フロアへと少なくした。
新オフィスのコンセプトは「社員自らが“行きたくなる"オフィス」。社内SNSで全従業員から募った216件のアイデアを基にして、社員が行きたくなるようなオフィスを構築している。早速、遊び心満載の新オフィスの様子を紹介していこう。
freeeならではの「オフィス空間」
エントランスには、freeeの企業ロゴが大きく描かれていた。裏面にはエンジニアが扱うプログラミングのコードと、freeeの10年の歴史が振り返れるQRコードが描かれている。
エントランスを抜けると、freeeのオリジナルグッズを無人で販売している「フリダシ」があった。エプロンやTシャツ、「フリダシ」限定の非売品グッズなどが売られており、オフィスに訪れる会計士や税理士から人気だという。
「フリダシ」の隣には、会計にまつわる歴史物を展示している「フリカエリ」があった。江戸時代の帳場を再現した空間や、明治時代から使われていた「5つ玉そろばん」などが展示されていた。
記者会見などで使う階段式のスペースや、気軽に軽食が食べられるカウンター、会計に関する書籍やシステム関連の技術書などが読める「ツバメ図書館」は、とても開放的で居心地が良かった。
社員が考案したコンセプト会議室
特に印象的だったのは、社員のアイデアから生まれたさまざまなコンセプト会議室。
会議室の名称も特徴的で、駄菓子屋をモチーフにした「ゲンブツシキュウ」や、本格的なキッチンで社員同士が料理できる「シャショク」、DJが使うターンテーブルがありダーツやビリヤードで息抜きできる「ネンマツチョウセイ」、社員が生けた生け花がある和風テイストの「タイシャクタイショウヒョウ」など、遊び心満載の空間がそこにはあった。
駄菓子屋をモチーフにした「ゲンブツシキュウ」
「ゲンブツシキュウ」は新卒の社員が発案。駄菓子やアイスクリームが無料で食べられる。新品で購入したものをエイジング加工しており、昭和の雰囲気を再現している。
本格的なキッチンがある「シャショク」
「シャショク」は料理が得意な社員が発案した。本格的なオーブンや業務用の冷蔵庫を完備。ホワイトボードやオンライン会議用のモニターも設置している。
DJが使うターンテーブルがある「ネンマツチョウセイ」
「ネンマツチョウセイ」はDJ経験のある社員が考案。社員は退勤後や会議が始まるまでの待ち時間に息抜きとして楽しんでいるという。
「ネンマツチョウセイ(年末調整)」という堅苦しいワードとは裏腹に、ロゴのデザインはとてもお洒落だった。
和風テイストの「タイシャクタイショウヒョウ」
「タイシャクタイショウヒョウ」には、花道経験者の社員が今朝生けた生け花が飾られていた。
会議室のほかにも、さまざまな空間に社員のアイデアが反映されている。テントやハンモックで休憩できるスペース「やほやほ」や、海辺をモチーフにした「HALO HALO beach」は、細部までこだわって作られているのが分かった。
デジタル技術で「働きやすさ」も追求
freeeの新オフィスでは、「楽しさ」だけでなく「働きやすさ」も追求している。
オンライン商談や面接用にフォンブースを42台設置。フリースペースの空席状況もリアルタイムでわかる設備も搭載した。
また、INITIALが提供する遠隔コミュニケーションツール「tonari」で大阪のオフィスと常時つながるようにした。等身大のスクリーンでリアルタイムに会話ができるため、ちょっとした相談や何気ない雑談がしやすくなったという。
なぜfreeeは「対面コミュニケーション」を重視するのか
freeeは事業の成長と組織の拡大を続けている。2019年6月末と2022年6月末を比較すると、顧客数は16万事業所から37万9000事業に成長し、従業員数は497人から1083人へと拡大した。そのうち完全リモートで入社した人数は半数を超える。
同社は新型コロナウイルス感染症拡大を契機として、2020年3月に全社一斉リモートワークを決断し、当時約500人だった従業員は原則リモートワークとなった。しかし、昨今の状況を鑑みて、2022年8月に出社方針の見直しを実施。個人の事情によって出社が難しい場合を除き、エンジニア職は週1日以上、その他の職種は週3日以上の原則出社を義務付けた。
顧客との商談や社内行事はすべて問題なくオンラインで開催できたのにもかかわらず、なぜfreeeは、オフィスに出社する「対面でのコミュニケーション」を重視するのか。
その問いに、オフィス移転の全体責任者である、freee CCO(Chief Culture Officer)の辻本祐佳氏はこう答えた。
業務はツールで効率化できても、従業員同士のコミュニケーションは効率化できないから。
2年以上の完全リモートワークの期間、忘年会をオンラインでやってみたり、リモートでも雑談がしやすくなる海外のシステムを導入したりしたが、やはり対面でのコミュニケーションには及ばなかった。リモートによるコミュニケーションだと、目の前にいる人の少しの言い淀みや、驚いている・困っているときの細かな感情の変化を読み取ることが難しい。
上司や同僚とちょっとした雑談や相談をしたいとき、ビデオ会議といったオンラインだと「わざわざ時間を空けてもらうのは申し訳ないな……」と、本来ならすぐに聞けることが聞けなくなってしまっている場合もある。この小さなコミュニケーションの違いの積み重ねが、会社全体の業績に影響を与えてしまう。
信念に近いものだが、対面でのコミュニケーションを最重要事項として捉えている。
取材を終えた後、筆者は自社のオフィスに帰りたくなくなっていた。遊び心が満載で働き方も追及していたfreeeの新オフィス。様々な企業のオフィスの取材をしたことがあるが、本当に「行きたい」と思ったのは同社が初めてだ。
「あの会社はオフィススペースを半減しているから、うちもどんどんリモートワークに切り替えて、オフィスのスペースを削減していこう」と、時流に身を任せるのではなく、今一度、自分の会社に最適な「コミュニケーションの形」を再定義してみてはいかがだろうか。