DX(デジタルトランスフォーメーション)の拡大とともに、企業におけるアジャイル開発を実現する「ローコード/ノーコード開発」に注目が集まっている。SAPがローコード/ノーコード開発として打ち出しているのが「SAP Business Technology Platform」だ。
今回、SAPでCTOとして「SAP Business Technology Platform」などのソリューションを担当しているJuergen Mueller氏(エグゼクティブボードメンバー)に、同社が考える「ローコード/ノーコード開発」について話を聞いた。あわせて、同社が注力しているクラウド分野の取り組みについても聞いた。
SAP HANA Cloudの最新動向はどのような状況か
SAP HANA Cloudは継続して強化している。SAP社内でも、新製品を開発する際はほとんどSAP HANA Cloud上で開発している。
「SAP Data Warehouse Cloud Cloud」はSAP HANA Cloudを使っており、需要予測・販売計画の「SAP IBP(Integrated Business Planning)」など、大規模なアプリケーションのSAP HANA Cloudへの移行も進めている。
SAP HANAの顧客は6万2000に達しており、SAP HANA Cloudは売上の面でも、保存されるデータ量の面でも年2桁ペースで成長している。
SAP HANA Cloudは性能、トランザクショナルデータとアナリティクスワークロードの両方をサポートしていることが最大の特徴だ。アナリティクスで高い要件がある場合、コスト効果の高いソリューションとなる。
発表当初、SAP HANA Cloudは純粋なテクノロジーとしてプッシュしていた。顧客がメリットを感じるのは、リアルタイムアナリティクス、一貫性と柔軟性のある形でデータをダイジェストできること。また、クラウドなので小さく始めることもできる。そこで、現在はビジネス上のインパクトを伝えるようにしている。
SAP HANA Cloudの活用例を教えてほしい
ドイツのHenkelは巨大なシステムをSAP HANA Cloud上に構築した。自社のトランザクション、アナリティクスに対応できるのはSAP HANA Cloudしかなかったと聞いている。
オーストラリアの大手小売業は4000店舗を抱え、1店舗につき4万アイテムを扱っている。昨今、サプライチェーンが不安定であることから、アイテム単位で365日のフォーキャストをすることになった。この規模に対応できるソリューションはSAP HANA Cloudしかなかった。これにより、競合優位性につなげている。
また、SAP HANA Cloudはマルチモーダルのデータマネジメントシステムでリーダー的ポジションにある。例えば、地理空間機能を利用して、構造化情報と地理空間情報を組み合わせて表示するようなケースでも重宝されている。
ローコード/ノーコード開発に対し、どのように取り組んでいるのか{#ID3}
2021年に買収したAppGyverはノーコードのアプリ開発プラットフォームで、買収後に「SAP AppGyver」としてリブランドし、「SAP Service Cloud」に統合した。これにより、SAP Service Cloudのユーザーは複雑な専門知識がなくてもカスタムアプリケーションを作成可能になった。
また、2022年2月にGAとなった「SAP Process Automation」は、ドラッグ&ドロップによるローコード開発ソリューションにワークフロー機能とRPAを組み合わせたものだ。このソリューションにより、企業はワークフローを作成したり、繰り返しの多い作業を自動化したりすることができる。発表以来、高い関心を集めている。
IT部門はさまざまな作業に追われており、人手も足りていない。ガバナンスのある形で、ビジネスユーザーが自分達でアプリケーションや拡張を開発できることは、今後さらに重要になる。
社内でも、今後も機能強化を続ける重要分野の一つと位置付けている。
ローコード/ノーコード開発分野の日本の事例を教えてほしい
SAPのノーコード/ローコード開発の差別化のポイントは、他のSAP製品の機能との親和性だ。ユースケースは、先にSAP AppGyverを統合した「SAP CX」で増えてきている。
日本でも徐々に活用が増えている。6月にローコード/ノーコードのハッカソンを開催したが、14のパートナー企業と顧客、総勢180人が参加した。SAP AppGyverを使って課題を解決するというもので、短期間で開発してもらった。
開発者に対してはどのような取り組みを行っているのか
CTO着任以来、取り組んできていることの1つだが、やることはたくさんある。SAP製品のコア機能においては、強力な開発者エコシステムがある。例えば、SAP AppGyverは8万~10万人規模の開発者コミュニティがあり、プロセスマイニングの「SAP Signavio」も大きなエコシステムがある。
一方で、開発者が新しいものを開発しようと思ったときに、開発プラットフォームとしてSAPを思い浮かべるかというと、そのレベルには達していない。SAPは開発者に素晴らしい技術を提供しており、多くを無償で公開している。開発者はSAPの取り組みを理解すると、熱意を持って取り組んでもらえるので、認知が課題と感じている。
例えば、大手コンサル企業では、SAPを実装する部門、データアナリティクスを専門とする部門、拡張・アプリ開発・統合の部門などがバラバラで、ここの連携を図ることが、SAP製品の活用の最大化の鍵を握る。
SAPが提唱している「コンポーザブルエンタープライズ」とは何か
マイクロサービス技術などを利用して、ビジネスプロセスの下のレベルの機能を簡単に設定したり、切り替えたりできるようにしていく。例えば、SAP Intelligent Suiteにおいて、「S/4 HANA Cloud」「SAP SuccessFactors」「SAP Ariba」などは大型のモジュールとなる。
大企業では、サービス間でのやり取りがたくさん発生することもあり、完全にマイクロサービスに移行することは意味をなさない。一方で企業は複雑なITランドスケープを抱えており、簡素化したり、他の機能と結びつけたりしたいと思っている。これを実現するには、データモデルや統合の点で協調できるコンポーザブルな仕組みを構築する必要がある。
こうしたコンポーザブルな仕組みを取り入れて、既にメリットを享受している企業もある。例えば、日立ハイテクノロジーズでは、数年に一度大型のERP刷新を行っていたところ、S/4 HANA Cloudを導入した後は毎年アップグレードできるようになったと聞いている。アップグレードに要する期間も、1年以上かかっていたのが1カ月程度に短縮できているとのことだ。
SAPは現在、新しい機能を構築する際はコンポーザブルに対応するクラウドネイティブにしている。機能を一新する際も、基本はクラウドネイティブだ。
われわれのポートフォリオは幅広く、業界向けソリューションは25種ある。これらすべてをクラウドネイティブにするのは膨大な作業となるため、理にかなうところから進めている。