また、TDTにクサフグが誘引されるかどうかを調査したところ、水槽の片側にTDTを投与すると、クサフグは投与したTDTに誘引されることが確認されたほか、TDTによって興奮する嗅上皮細胞について、興奮した細胞を染めることができる特殊な方法を用いて調査が行われたところ、魚にとってエサの匂いであるアミノ酸を感知する細胞が集まった「島」の周囲に存在する、これまで感覚細胞とは考えられていなかった細胞が標識され、これがTDTを感知する細胞であることが判明したという。

これまでの研究から、TDTは、フグなどのTTX保有生物の体内にTTXとともに大量に蓄積されていることが理解されていた。しかし、TTXと比べて神経や筋肉に存在するナトリウムチャネルの働きを抑える力が弱く、TTXの1/3000以下であるため、ほとんど無毒であると見なされている。そのような無毒なTDTがフグの体内になぜ蓄積されているのか、これまで謎に包まれていたが、今回の研究により、その生物機能が明らかにされることとなったという。

クサフグは5~7月の満月~新月の夕刻に特定の場所に集まって集団産卵することが知られている。クサフグの雄は、雌の卵巣にTTXと一緒に蓄積され、お尻から漏れ出てくるTDTの匂いに惹きつけられている可能性があるという。これまで、猛毒のTTXが担っていると考えられていた誘引機能が、実は無毒のTDTが担っていたという従来の定説を覆す新発見としている。

  • クサフグは、TDTを嗅ぐことでエサを探したり、雄が雌を探す際の手がかりに使っていたりする可能性があるという

    クサフグは、TDTを嗅ぐことでエサを探したり、雄が雌を探す際の手がかりに使っていたりする可能性があるという (出所:名大プレスリリースPDF)

また有毒フグは貝やヒラムシ(扁形動物)、甲殻類などをエサとして食べるが、これらの動物にはTTX・TDTの両方を含む種が多く存在する。最近の研究によって、クサフグの消化管内からTTXを含有するヒラムシやほかの有毒フグの卵が見つかっていることから、フグはTDTを“エサの匂い”として認識し、結果としてTTXを含むエサを積極的に摂取して毒化している可能性も考えられるとした。

研究チームは今回の研究と前後して、クサフグとは系統関係・地理的分布が離れている、別の有毒フグである「ミドリフグ」の研究も実施。TDTに対する誘引行動が見られること、TDTに特異的に応答する嗅細胞が存在することが発見されており、TDTの匂いに誘引されるという性質は有毒フグに共通した性質であると考えられるという。しかし、有毒フグが無毒のTDTに誘引されるようになった理由など、まだ解明されていない部分も残されているともしている。

なお、今回の研究成果により、フグの毒化機構や繁殖行動に関する理解が進むことで、日本の食文化であるフグを安全に食べるための公衆衛生面にも重要な情報を提供できることが期待されると研究チームではコメントしている。