名古屋大学(名大)は9月8日、フグの持つ危険な神経毒「テトロドトキシン」(TTX)の類縁体の1つであり、無毒の「5,6,11-トリデオキシTTX」(TDT)が、フグの雌が雄を誘引する匂いとして働くという、これまでの定説を覆す新たな発見をしたことを発表した。

同成果は、名大大学院 生命農学研究科の阿部秀樹准教授、同・安立昌篤講師(現・東北大学大学院 薬学研究科 准教授)、同・西川俊夫教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

1960年代に名大などの研究者によって構造決定されたTTXは、その分子が神経や筋肉の働きを抑えることで毒性を示し、フグはTTXを主に防御物質として利用していると考えられている。しかし、フグはこの猛毒を自ら生産しているわけではなく、TTXを持つ生物をエサとして食べることで体内に蓄えることが知られている。

一方で、フグの卵巣や卵に含まれるフグ毒の量は繁殖時期に増加すること、繁殖期の雄のクサフグやトラフグはフグ毒に誘引されることが報告されており、卵巣から体外に漏れ出たTTXは、雄を誘引するフェロモン用物質としても働く可能性が唱えられてきた。さらに、TTXはフグの卵を狙う生物には忌避的に働くことが報告されており、産卵した卵が食べられることを防げるともされている。

そこで研究チームは今回、フグがTTXを匂いとして感知することができるのかについて、クサフグの鼻の内側の表面を覆う細胞の集まりである「嗅上皮」が匂い物質で興奮したときに発生する電気活動を、「嗅電図」を用いて記録することにしたという。

その結果、クサフグ嗅上皮はTTXに対してはまったく応答しないが、クサフグの体内にTTXと一緒に含まれている無毒のTDTに対して応答することが発見されたとする。

  • クサフグはTDTを嗅げることが確認された

    クサフグはTDTを嗅げることが確認された (出所:名大プレスリリースPDF)