ジョーシスは9月7日、ベンチャーキャピタルなどから44億2000万円の資金調達を完了したことを発表した。

同社はラクスルのグループ会社で、2021年9月からITデバイスとSaaS(Software as a Service)の統合管理クラウドサービス「ジョーシス」を情報システム部門やコーポレートIT部門向けに提供している。

  • ジョーシスには今回、グローバル・ブレイン、ANRI、Yamauchi-No.10、デジタルホールディングス、WiLといったベンチャーキャピタルが出資した

    ジョーシスには今回、グローバル・ブレイン、ANRI、Yamauchi-No.10、デジタルホールディングス、WiLといったベンチャーキャピタルが出資した

調達した資金は、国内での開発・販売体制の強化のほか、同サービスの海外展開に活用する予定だ。同社は今後、英語圏(インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、ドイツ、オランダ、アメリカ、カナダ)でのサービス提供を進める。2023年初頭にはシンガポールでサービス提供を開始する。

加えて、同サービスのユーザーである情報システムの担当者や、PC、タブレット端末、スマートフォンなどの管理者のつながりを作るコミュニティ活動を強化していくという。

今回、ジョーシス CPO(Chief Product Officer)である横手絢一氏にインタビューする機会を得たので、サービスの海外展開やコミュニティ活動強化の意図とともに、サービス立ち上げから1年が経つ中でのユーザーの反応や、今後のサービス拡張方針を聞いた。

海外でもIT管理のオペレーションが負担に

なぜ、サービスの海外展開を決めたのですか?

横手氏(以下、敬称略):海外の現地企業への事前調査やヒアリングを通じて、情報システムやIT資産を管理する部門が抱える課題は、日本だけでなく海外でも共通していることがわかってきたからです。

  • ジョーシス CPO 横手絢一氏

    ジョーシス CPO 横手絢一氏

PC、タブレットなどのクライアントや、ZOOM、Dropboxなどのビジネス向けアプリケーションのテクノロジーが飛躍的に向上している中で、海外においても管理者のオペレーションは追い付いておらず、程度の差はあれど働くうえでの負担になっているようでした。

サービス立ち上げ当初から、グローバルでのサービス提供を念頭に掲げていて、「海外でもIT管理の課題は共通しているはずだ」と考えていたので、その仮説を確かめるうえでも海外の企業にもサービスを提供していきます。

国内ではどのような取り組みを強化しますか?

横手:2022年の7月から、企業の情報システムやコーポレートITの関連業務に携わる方の学びの場として、「ジョーシスラーニング」というセミナーを開催しているのですが、これのコミュニティ機能を強化していきます。具体的には、相互にコミュニケーションをとれる場を設けたり、記事などのコンテンツ配信を行っていくつもりです。

情報システム部門などで働く方々は、日々のオペレーションに忙殺されていて、まとまってラーニングしたり、知見を共有したりする場が少ないと日々感じています。また、働く人も元々ITへの関心が高くて、エンジニアを目指していた方ばかりではありません。社内の異動だったり、入社後に配属されたりして、たまたま情報システムやIT資産に携わっている人も多くいます。

当社でコミュニティを立ち上げて、業務効率化とスキルアップにつながる機会や場をより増やしていくことで、日々の業務の負担軽減につなげていきたいです。そして、情報システム部門などで働く方々がアプリの便利な使い方やセキュリティの高度化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の検討などに時間を使えるようにサポートしたいです。

サービス提供後、情シスの方からの問い合わせは?

横手:「サービスへの問い合わせは、多くて1日10件ほどだろう」と当初は考えていましたが、想定の5~10倍の引き合いがあり、驚きました。

問い合わせ内容としては、「デバイスやアプリの管理が追い付いていない」「現在のIT管理の担当が来月辞めてしまうが、後任が決まっていないのでなんとかしたい」など、バーニングニーズ(切迫したニーズ)が多かったです。また、大企業から中堅・中小企業と規模や従業員数は問わず、創業間もないIT企業だけでなく、不動産、メーカー、ホテル、飲食、フラワーショップや酒屋など業種もさまざまでした。

企業の情報システム部門・コーポレートIT部門のアナログ業務を自動化し、業務を効率化しようとジョーシスを提供し始めましたが、ユーザーのすそ野の広さとともに、IT資産の管理・運用の課題の深刻さをあらためて実感しました。

  • ジョーシスの画面イメージ。従業員のステータスと利用しているSaaS、デバイスなどの情報を一覧できる

    ジョーシスの画面イメージ。従業員のステータスと利用しているSaaS、デバイスなどの情報を一覧できる

人事部との情報連携に改善の余地あり

プロダクト提供後に気付いた課題は?

横手:サービスがカバーする領域は幅広く取れていたものの、カバーすべき要件の深掘りが足りていなかった点です。「この機能では、こんな設定ができないの?」「AとBの機能が連動していないと使いにくい」など、さまざまな問い合わせや要望がありました。そのおかげで、マニュアル作業をサービスで自動化するにあたって、満たされていないと導入が難しい要件に気付けました。

具体例としては、ITデバイスの調達や業務アプリケーションのアカウント発行・削除における人事情報の連携が挙げられます。

サービス提供当初、ジョーシスでは情報システム部門が他部門から情報を受け取った後の業務フローを効率化する機能を意識的に実装していました。しかし、ユーザーの声を聴いてみると、人事部との情報連携でやりとりが発生したり、共有された情報が不完全だったりで業務が煩雑になっているケースが多かったのです。

ITデバイスの調達やアカウントの発行・削除は、異動や新規・中途採用での人の増加などに伴って起こることが多いです。そうした人の動きは、人事情報に基づくものですが、人事情報は組織内における重要情報と位置付けられているので、リアルタイムに共有されることはありません。例えば、9月1日入社の人の情報が2~3週間前の8月中旬に突然共有される。しかも、共有された情報はIT資産管理に必要な部分のみで、フォーマットの異なるExcelファイルに貼り付けられているので、情報システム部門の方で加工しなければいけなかったりします。

そこで、ジョーシスでは従業員情報を他システムとの連携機能を改善し、情報システム部門で必要な部分を見やすく、事前に取得できるようにしました。

今後のサービス拡張の方向性は?

横手:「情報システム部門で働く方の業務を楽にする」というコンセプトでサービスを提供開始したので、SaaS管理やIT資産管理だけに留まらず、多様なサービス展開を今後も続けます。

ユーザーからは、クラウドだけでなくオンプレミスの資産も管理したいというニーズが多く、ジョーシスではオンプレミスの資産も管理できるようなアーキテクチャを採用し、APIを解放しています。

デバイス管理機能では、「ノートPC」「共有PC」など自由にラベリングが可能なのですが、デスクやキャビネット、カメラなどを管理しているユーザーもいるので、まだまだ気付けていないニーズがあると感じています。

他方で、昨今では上場審査が厳格化してきており、「アカウントやデバイスの管理をどのような体制で行っているか」「管理者権限を持った退職者アカウントが放置されていないか」など、ITの管理体制も審査対象となってきています。監査やガバナンス強化の視点でのニーズもあるのではないかと考えており、今後は関連領域の機能も検討していきたいです。