日本IMS協会は8月25~27日の3日間、オンラインイベント「IMS Japan Conference 2022」を開催した。本記事では同イベントから、「校務系-学習系システム間の国際技術標準による名簿連携」と題する埼玉県鴻巣市での事例を紹介する。
講演者は、鴻巣市教育委員会の教育部学校支援課で指導主事を務める村上敏之氏。
村上氏は2021年度まで同市内の中学校で理科の教員を務めており、学校の名簿や成績、教材の相互運用を可能にするための技術標準であるOne Rosterを、特別には意識せずに使っていたという。
「技術的なところは詳しくない」(村上氏)と言いつつ、学校の現場や教育委員会での活用の実例を紹介していく。
学校教育の情報化を推進
同市では内田洋行と協力し、児童・生徒・教職員に留まらず、保護者や地域を含む多様な活動や場所を対象として、これからの学校教育全体のあるべき姿を市内で共有することで、学校教育情報化の推進を図ってきたという。
そのため、校務系と学習系が一体となったシステムが重要になるのだと、村上氏は説明する。
また、児童・生徒・学習者用端末の導入に合わせ、「ICT端末を文房具のように活用しよう!!」とのスローガンの下に活用を進め、個別学習・共同学習・新たなスタイルが、家庭学習も含めて端末を活用した学習が広がりつつあるとのことだ。
講演は、同市の校務・学習システムの説明に移る。
同市では、校務系は内田洋行の校務支援システム、学習系は同社の学習ポータルである「L-Gate」を採用している。
校務支援システムでは、学籍の管理、出席管理、成績管理、保健管理など、校務に関する作業はほぼ対応できるという。加えて、文書交換や学校間・教育委員会との連絡も可能とのことだ。
勤務時間を除く在校時間を調査したところ、2021年度と比べて2022年度は約10%減少したそうで、「教職員の働き方改革の実現にも大きく貢献しております」(村上氏)という。
学習系では、L-Gateが指導者用・学習者(児童・生徒)用端末共に、起動すると自動的に立ち上がるよう設定していると、村上氏は説明する。
L-Gateは全ての学習の入口となっていて、さまざまな学習用アプリケーションにつながっているとのことだ。
メニュー構成はカスタマイズ可能で、学習ソフトやデジタル教科書の他に、欠席連絡なども確認できるという。
授業はL-Gateからスタートするのが基本になっていて、「教師がL-Gateのアイコンを指示することで、スムーズに学習をスタートできるようになっています」(村上氏)。
なお同市はMEXCBT(メクビット、文部科学省CBTシステム)を2021年度から使用開始し、2022年度には全校で使用できるよう設定したとのことだ。
全国の学力・学習状況調査に先駆け、埼玉県の学力・学習状況調査もCBTで実施する計画であり、2022年9月には接続確認調査を市内全体で行う予定という。
児童・生徒の情報は校務支援システムで管理をしており、基本情報、保護者情報、所属情報、特別活動など多様な情報が入力可能で、またその情報が学習系にも連携するため、村上氏は「教職員は境界無く仕事を進められます」と、その利便性を語る。
学級名簿の作成も名簿連携により省力化
児童・生徒の名簿管理では進級・進学が伴うが、「校務支援システムでとても便利に作られていて、作業はとても簡単です」(村上氏)という。
進級処理は、まず学級編成をし、画面左側の前年度の学級名簿から右側の新しいクラスを選択して児童・生徒を割り当てていくと名簿を作成でき、情報も連携できるとのことだ。
小学校から中学校への進級でも、小学校が進学先を設定すると、中学校へ自動的に情報が送られるという。中学校では、受け取った情報を基に1年生の学級編成ができると村上氏は説明する。
村上氏は進路に関する業務も担当もしており、校務支援システムで調査書を作成しているが、現在は高校へはデータではなく紙で提出する形になっているという。
「これから中学校から高校への連携も進んでいくのではないかと、期待をしております」(村上氏)
学校教育の情報化推進で学び方・教え方・働き方が一変
村上氏によると、同市では学校教育の情報化推進をさまざまな場面で進めているといい、校務系・学習系のシステム間の国際技術標準による名簿連携も、教職員の教え方、働き方、児童・生徒の学び方に、大きく貢献しているという。
「学び方・教え方・働き方が、情報化推進により一体的に変わることによって、教育の質も向上していくのではと、鴻巣市では考えております」(村上氏)
最後に村上氏は、「これからも、鴻巣市はさらなる情報化の推進を続けながら、より良い教科、教育の姿を求めていこうと考えています」と、将来の展望を示した。