コニカミノルタは8月24日、同社のインダストリー事業に関するメディア説明会を開催した。当日は、光や色の計測機器をあつかうセンシング分野の拠点である同社の堺サイト(大阪府)と、画像IoT分野の拠点となる高槻サイト(大阪府)がメディアに公開され、製品・サービスのデモとともに同社の生産・開発現場の見学も行われた。
本記事では、2つのセンシングと画像IoT、両分野の今後の事業の方向性とともに、2つの拠点で行われた同社製品や技術のデモの様子を紹介したい。
センシングはフィルム・製薬など新分野に事業拡大
スペースシャトル「アポロ8号」から見た地球の青さを計測するためのスペースメーター(露出計)を1968年に提供して以来、コニカミノルタは光を計測するセンシングソリューションを開発・提供してきた。
センシング分野においては、ディスプレイや照明、顔認証の光源などの発光体を対象とした「光源色計測」、部品・食品・印刷物の色を測定する「物体色計測」、工業製品の外観を検査する「外観計測」、可視光より広い波長の光を捉えて人の目で判別できないモノの状態や成分などを判別する「HSI(ハイパースペクトルイメージング)計測」の4領域で製品を展開する。
堺サイトは光源色・物体色計測機器の企画・開発・生産・販売の拠点であり、センシング分野のグローバル中核拠点としても機能している。また、海外関連会社の測定装置や検査システムなどのデモや実証実験も行っている。
コニカミノルタは、スマートフォンの需要増や国内外メーカーの市場参入を受けて2012年に液晶ディスプレイやその関連技術に強みを持つInstrument Systemsを買収した後、自社の事業と関連性の高い、光・色あるいはマシンビジョンの領域で独自技術を有する企業の買収を続けてきた。
直近では、SDGs(持続可能な開発目標)とともに循環型経済や労働、健康などが注目される中で、2020年にHSI計測技術に強みを持つSPECIMを買収し、ごみ問題や資源の有効活用、食の安全の課題を解決につながる安全・安心・衛生領域での事業展開を決めた。
今後の事業戦略について、コニカミノルタ 上席執行役員 センシング事業本部長の亀澤仁氏は、「引き続き、既存の事業領域に近いニーズ・領域をつなげて、顧客に価値を提供していく。例えば、外観計測では自動車だけでなく、フィルムなどのICT部材の検査領域も検討している。また、安全・安心・衛星領域の検査、モニタリングから展開を始めたHSI計測は、共通技術を製薬分野においても生かす方向性を考えている」と明かした。
コニカミノルタによれば、2021年時点の画像検査市場の規模は6000億円だという。そのうち、同社が事業展開する4領域の市場規模については、光源色計測が480億円、物体色計測が480億円、外観計測(自動車)が57億円、HSI計測が170億円だった。
2025年までに画像検査市場は8700億円(CAGR、年平均成長率は8%)まで成長する見通しだ。また、光源色計測は550億円(同4%)、物体色計測は560億円(同4%)、外観計測(自動車)は100億円(同15%)、HSI計測は300億円(同15%)まで成長すると同社は見込む。
「あくまで、マシンビジョンの中でも技術的な難易度や市場への提供価値、市場の成長性が高く、当社が強みを持つ光・画像計測技術と接点のある領域をターゲットとする。外観検査においては、ファクトリーオートメーション全体を対象とせず、画像を主体としたオートメーションのセグメントをねらっている。そのため、今後はディスプレイやAOI(自動光学検査)の領域も一部対象となるかもしれない」と亀澤氏。
プラスチックの素材を見分けるHSI計測
メディア説明会では、コニカミノルタが注力するHSI計測と外観計測のデモが行われた。
HSIは計測対象に光を当てて、反射した光のうち近赤外光をハイパースペクトルカメラで撮影し、数十~数百バンドのスペクトルを計測する技術だ。
デモではプラスチックにハロゲンランプの照明を当て、その反射光をハイパースペクトルカメラで撮影して素材を判別した。PET、PP、PE、PSなどプラスチックの素材はさまざまなものがあるが、素材ごとに光の反射の仕方が異なる。HSI計測では、そうした光の反射特性を利用して、素材ごとに特徴的な反射を把握・分析し、素材の判別に利用する。
なお、プラスチック自体に色がついている場合でも、ハイパースペクトルカメラで素材ごとに特徴的な反射光を捉えることができれば素材を判別可能だという。
多層フィルムは各層の反射光をハイパースペクトルカメラが重ねて捉えて、複合的なスペクトルを計測するが、フィルムの素材に特徴的なスペクトルを分離できれば、同様に各層のフィルムの素地も分類できるそうだ。
現状、コニカミノルタでは、プラスチックの素材判別の用途向けのシステムを提供している。同システムでは、ハイパースペクトルカメラと専用プラットフォームで構成されており、プラットフォームにはリサイクルの分類に適したソフトウェアと撮影画像などを高速に処理するためのプロセッサを備えている。同社は現在、計測時間の短縮に向けてプロセッサの処理性能向上を進めるとともに、食品・製薬など他領域でのHIS計測の展開を検討している。
リサイクル現場での導入事例では、システムとロボットアームを連携させて、ベルトコンベアで流れてくるプラスチックをリアルタイムで計測し、計測情報を基にロボットアームなどでソーティング(選別)を行っているという。
数万枚の画像撮影で自動車の塗装不良を検出
外観計測では、「トンネル型自動検査システム」による自動車の塗装検査のデモが行われた。
従来、自動車の塗装検査では、検査員が専用の照明で自動車のボディを照らしながら、目視で外観をチェックして、塗装の垂れ、塗りムラ、スクラッチ(細かい傷)などの塗装不良を見つけている。だが、人手による作業のため、検査員の負担が大きく、検査品質も体調や集中力に左右される。
メーカーによってはロボットを用いて検査工程を一部自動化しているケースもあるが駆動部の巻き込まれ防止などの安全対策が必要なうえ、1台の検査につき複数台のロボットが必要になるという。
デモで使用されたトンネル型自動検査システムでは、車1台あたり4万枚から6万枚の画像を撮影し、高速処理することで自動車の車体にある不良箇所を検出する。検出したデータは修正工程とデータ連携したり、製造工程の改善に活用したりすることができる。
また、塗装だけでなく、すき間・段差、傷、凹みなどの検査にも対応可能だ。コニカミノルタでは、同システムを活用したEVバッテリーの検査ソリューションの開発も進めているという。