北海道大学(北大)は9月1日、人工衛星データの解析から南米チリ・パタゴニアで人知れず発生した氷河湖決壊洪水を発見し、その規模とメカニズムを明らかにしたと発表した。

同成果は、北大大学院 環境科学院の波多俊太郎大学院生、北大 低温科学研究所の杉山慎教授、北大の日置幸介名誉教授(元・理学研究院 教授)らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・環境・惑星科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Earth & Environment」に掲載された。

近年、地球温暖化の影響により氷河氷床が縮小し、氷河湖が増加しているとされる。氷河湖は、不安定な氷や堆積物でせき止められていることが多く、決壊した場合は深刻な洪水災害を引き起こす危険性が問題視されている。

また湖に流れ込む氷河は、陸上にある氷河よりも急速に後退しており、海水準上昇に対して大きな影響を与えているほか、氷河から湖に流れ込む融け水や物質の循環は、環境や生態系に大きな影響を与えることも知られており、こうした決壊洪水のリスクマネジメント、氷河変動、山岳域の環境変動を考える上で、氷河湖の詳しい理解が重要だとする。

そうした中、研究チームは、南米パタゴニアの氷河変動を人工衛星による地球観測データを使って解析する過程で、研究対象地の氷河湖であるグレーべ湖における湖岸線が、急速に後退したことに気がついたという。湖から陸地が顔を出し、短期間のうちに水位が下がったと考えられるという。グレーベ湖は世界で4番目に大きい氷河湖で、面積は琵琶湖に近い188km2。もし湖が決壊したとすれば、膨大な湖水が流出した可能性があることから、今回、さまざまな人工衛星データを用いて、流出した水量とそのタイミング、決壊の原因を詳しく調べることにしたという。