慶應義塾大学(慶大)は8月26日、これまで直接見ることができないために謎が多かった、脳内のペプチド性ホルモンの一種で、幸せホルモンや愛情ホルモンなどとも呼ばれる「オキシトシン」を可視化するツールの開発と応用に成功したことを発表した。
同成果は、慶大医学部 薬理学教室の塗谷睦生准教授、横浜国立大学 環境情報学府の中村花穂大学院生、慶大医学部薬理学教室の唐澤啓子氏(研究当時)、同・安井正人教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する分析化学に関する全般を扱う学術誌「Analytical Chemistry」に掲載された。
オキシトシンは分娩促進などの働きに加え、脳内における神経伝達物質として働き、感情や精神状態に影響を与えることでヒトをはじめとする多くの生物の社会行動に関与することが近年明らかにされてきている。また、自閉スペクトラム症患者の症状がオキシトシンの投与で改善されるといった報告も出されており、その社会的な重要度が増している。
しかし、オキシトシンの分子量は1000程度であり、これまで観察に用いられてきた蛍光タグ(分子量は700程度)を結合させると本来の挙動をゆがめてしまい、生体内での真の姿を観察することが難しいという問題を抱えていたという。
そのため、オキシトシンを脳内で直接観察は困難で、その挙動などは良く分かっていなかったとする。そこで研究チームは今回、蛍光タグとは異なる手法でオキシトシンの可視化を試みることにしたという。
具体的には、誰でも短時間で簡便に遂行できる単純な化学反応を介することで、オキシトシンに分子量25以下と小さく、オキシトシンの挙動にほとんど影響を与えないと考えられる「アルキンタグ」を結合させる方法を考案。この新たなツールに「アルキンオキシトシン」と命名したとする。