工具卸売業を展開するトラスコ中山が今、デジタル戦略を積極的に進めている。同社取締役で経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長を務める数見篤氏によると、「ありたい姿が明確に決まっている」ことがポイントだと言う。
6月23日、24日にオンラインで開催された「TECH+ EXPO 2022 Summer for データ活用 データから導く次の一手」では、この数見氏が「業界最後発問屋のデータドリブン経営」と題し、自社のデジタル戦略の考え方、進め方について語った。
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ありたい姿が定まっているからこそのDX
1959年に創業したトラスコ中山は、工場や工事現場で使われる工具といったプロツールなどを取り扱う機械工具卸売業を営む。「機械工具卸売業としては最後発。我々の後に同業他社は誕生していないので、同業の先輩だらけ」(数見氏)という状況の中、事業展開している。パーパスは、「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」「がんばれ!! 日本のモノづくり」だ。「単にパーパスを掲げるだけでなく、それに沿った事業をやり続けていくことがポイント。社員一人一人がパーパスに腹落ちしていることを大切にしています」と続ける。
同社は現在、“ありたい姿”として、「2030年までに在庫100万アイテムを保有できる企業になりたい」など11の目標を掲げている。デジタル戦略はそれを実現するための手段という位置付けだ。
「目指す姿が明確に定まっていると、DXを手段として活用できます。ビジョンと具体的に何をやりたいのかが明確にあり、それを実現する手段としてデジタルやデータを活用するのです。この流れを日々徹底しています」(数見氏)
在庫は“成長のエネルギー” - 在庫戦略をデータで支える
次に数見氏は、トラスコ中山の物流戦略と在庫戦略について説明した。同社は国内27カ所に大型物流センターを持ち、在庫アイテムは約50万アイテム、在庫金額は約426億円だという。在庫は持たない方が良い、在庫回転率を高くした方が良いといった考え方がある中で、トラスコ中山では在庫を持つことに重きを置いている。
その理由を数見氏は、「在庫がたくさんあると売れる、在庫は成長のエネルギーだと考えている」からだと説明する。そのため、顧客からの注文のうち自社の在庫からどれだけ出荷できたかを示す「在庫出荷率」を重視していることも明かした。2021年12月時点で在庫出荷率は91.3%、注文100件に対し91件以上が在庫から出荷できたことになる。この在庫出荷率は2015年の88.2%から少しずつ上がっており、これこそが「データの力だ」と強調する。
トラスコ中山では現在、「品揃え・在庫」のほか、「物流」「サービス」「商品」の4分野でデータ活用を実践している。数見氏はそれぞれについて具体例を紹介した。
品揃え・在庫分野のデータ活用として紹介したのが「ザイコン3」だ。約50万アイテムにも及ぶ在庫の管理を目的に、需要予測などの技術を使って適切な場所に適切なアイテムを品揃えするという取り組みである。注文実績を基に1アイテムごとの需要を予測して発注することで、欠品が減る、在庫管理の時間を削減できるなどのメリットが得られているそうだ。販売実績データを分析して定期的に売れていると判断した場合は、その商品を在庫化するという。一方で、「在庫コントロールが完璧かというと全くそんなことはない」と数見氏。
「ロジックそのものの構築や、ロジックとAIをどのように組み合わせて最適なものにしていけば良いのかなど、まだチャレンジ中です」(数見氏)
もう一つの例が「MROストッカー」だ。ユーザーの現場にスペースを持ち、リクエストを基に希望の工具を置くという”置き薬”ならぬ”置き工具”の取り組みである。常に顧客のすぐそばにあるため、納期はゼロ。アナログなやり方であるが故、「補充が無いなどの事態になるが、デジタルを活用することで在庫補充や置く商品の見直しなどを行っている」(数見氏)という。
このほか、見積の問い合わせにAIを使うことで、従来回答までに1日を要していたところを数秒レベルに短縮することに成功した「即答名人」などの取り組みも紹介した。