東京理科大学(理科大)は8月9日、以前に研究チームが発見した「環状有機金錯体」を経由する「シクロパラフェニレン」(CPP)の合成法について、環状有機金錯体の生成機構を明らかにする過程で、その環状錯体化における金-炭素結合の迅速な交換反応が関与する動的共有結合性を明らかにし、その交換過程の反応機構を提唱したことを発表した。
また、この動的共有結合性を応用することで、CPP類の効率合成や大環状金錯体の再組織化を利用したCPP合成法の拡張に成功したことも併せて発表された。
同成果は、理科大 理学部 第一部化学科の吉越裕介助教、同・斎藤慎一教授、同・土戸良高助教、同・河合英敏教授、同・丹治洋平大学院生、同・畑優成学部4年生、東京工業大学 化学生命科学研究所の小坂田耕太郎名誉教授教、京都大学 化学研究所の山子茂教授、同・茅原栄一助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学に関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「JACS Au」に掲載された。
ベンゼン環をパラ位で環状に連ねてつなげた化合物群は、[n]シクロパラフェニレン([n]CPP)(nは構成されるベンゼン環の枚数)と呼ばれている。主に炭素で構成されたナノサイズの環状化合物で環状に電子が共役しており、またそのサイズ(nの数)によって「発光色が変わる」あるいは「電子的特性が変化する」といった性質を持つ。カーボンナノチューブやフラーレンの部分構造としての興味深い物性を持つことからも、注目を集めているという。
一方で、CPPとその類似化合物の合成では、その環状にする工程が困難であるため、従来は合成が困難な化合物とされていた。しかし、2009年~2010年に、京大の山子教授らを含む国内外3つの研究チームがCPPの合成に成功。これを皮切りに、多様なCPPとその類似化合物が合成され、その分野を躍進させることとなった。
2020年には、東工大の小坂田名誉教授、理科大の土戸助教らは、三角形大環状金錯体を経由した新たな[6]CPP合成法を報告。同合成法は、市販試薬から2段階でCPPを高い収率で得ることができる点が評価されているという。しかし、同方法の環化効率の高さについては未解明な部分が多く、またその汎用性についても未開拓な部分があるという。
そこで研究チームは今回、環状金錯体を経由するシクロパラフェニレン(CPP)の合成法における環状金錯体の生成機構を明らかにすることにしたという。