新型コロナウイルスのさまざまな変異株に対する抗体の量を1滴の血液から8分で測定できるシステムを開発した、と理化学研究所(理研)などの研究グループが発表した。次々と新たな変異株が登場してもワクチン接種の効果がその場で分かり、追加の接種を受けるかどうかや接種時期を判断する上でも貴重な情報を提供できるという。研究グループは連携企業と早期に測定サービスを開始する準備を進めている。

開発したのは、理研創発物性科学研究センターの秋元淳客員研究員、伊藤嘉浩チームリーダーや千葉大学大学院医学研究院の中島裕史教授、理研発バイオベンチャーのアール・ナノバイオ(埼玉県和光市)のメンバーらの研究グループ。

この自動測定システムは、特殊加工したチップ(基板)に新型コロナウイルスを構成するヌクレオカプシド・タンパク質と、変異株のスパイク・タンパク質を「光固定」と呼ばれる独自の方法でスポット状に配置。この上に検体の血液1滴を垂らして小さなカセットに装填し、試薬を用いる。抗体があると化学発光し、その発光シグナルをCCDカメラで撮影することで抗体量を測る仕組みだ。

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    理研などの研究グループが開発した変異株抗体量の自動測定システムの概念図。さまざまな変異株に対する抗体量も8分で分かる(理研提供)

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    理研などの研究グループが開発した自動測定システムの基本的な仕組み(理研提供)

これまで抗体量を測る方法としては、主に医療現場で使われる免疫クロマトグラフィー法と分析センターなどで使われるELISA法がある。免疫クロマトグラフィー法は10~15分程度で結果が分かるが感度が低く、検体は最大20マイクロリットル(1マイクロリットルは100万分の1リットル)が必要。ELISA法は、感度は高いが結果が出るまで数日から最大1週間程度かかる。また検体も500マイクロリットルを採血する必要があった。

理研などが開発した新たな自動測定システムは、血液1滴(5マイクロリットル程度)があれば、カセットを装置にセットしスイッチを押すだけで、血液と試薬との反応や洗浄、検出といった工程が自動的に進み、わずか8分で結果が出るという。検査するその場で結果が出て被検者の負担が小さい。また従来の2方法では一度に簡単に複数の変異株に対する抗体量を測定できなかったが、現在多く登場している変異株に対する抗体量が1回の検査で分かるという。

研究グループはこのシステムを使って、さまざまな年齢層の男女15人を対象にワクチン接種前後の変異株に対する抗体量の変化を調べた。その結果、2回目接種から6カ月以上経過するといずれの変異株に対する抗体量は顕著に減少していた。しかし3回目接種をすると、接種1カ月後にはウイルスと戦う力が十分期待できる抗体量を確認できたという。

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    ワクチンの2回目接種から6カ月以上経過した場合と3回目接種後では変異株を問わず抗体量が大きく異なった(理研提供)

新型コロナウイルスは従来株のほか、デルタ株、カッパー株、ガンマ株、ベータ株、オミクロン株などさまざまな変異株が登場。国内で感染拡大の第6波をもたらしたオミクロン株も亜種の「BA.5」が登場し、現在の第7波を引き起こしている。今後もワクチン接種を重ねてもコロナ禍は簡単には収束しそうにない。

研究グループによると、新システムを活用することで簡単に疫学調査ができるほか、医療現場でも簡単に抗体量の精密検査が可能になる。また、感染拡大している時などに、個人レベルでも接種の是非や時期を判断する上でのデータを提供できるという。理研の伊藤嘉浩チームリーダーは「ワクチン接種の仕方など、今後感染症対策をどのように進めるべきかの判断にも役立ててほしい」などと述べている。

今回の研究開発成果は8月2日付の日本分析化学会誌「アナリティカル・サイエンシズ」電子版に掲載された。

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