2020年9月、経済産業省は「人材版伊藤レポート」を公表した。以来、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」の重要性が認識され始めてきている。こうしたトレンドが生まれる以前から、カゴメはいち早く人的資本の考え方を取り入れ、グローバルで人事制度改革に取り組み、ジョブ・グレードや評価報酬制度などの整備を進めるなどして従業員のキャリア自律を促してきた。

6月28日に開催された「TECH+セミナー 人事テックDay 2022 Jun.人材の価値を最大限に引き出すために」で、カゴメ 常務執行役員CHO(人事最高責任者) 有沢正人氏は、人的資本経営と、そのベースとなるタレントマネジメントおよびHRBP(Human Resource Business Partner)制度について、自社事例を紹介しながら解説した。

「人的資本」への転換は、ジョブ型導入が効果的

人材版伊藤レポートでは、「経営戦略と人材戦略の連動」が人的資本経営における日本企業の重要課題であると指摘されている。グローバル化のためのインフラ整備、年功序列の是正、人材投資の適正配分を目的に人的資本の考え方を取り入れてきたカゴメでは、約10年前に管理職以上の従業員に対しジョブ型の人事制度を適用した。

同社では、職務の大きさを「知識・経験」「問題解決」「達成責任」の3つの要素に分けてそれぞれに対し各8項目の指標で評価し、各ポジションを「グローバル・ジョブ・グレード」として格付けしている。有沢氏によると、「人的資産」から「人的資本」という考え方へ転換し、経営戦略と人事戦略を連動させるには、こうしたジョブ型制度の導入が効果的な手段の1つになり得るという。

「評価報酬制度の切り替えと同時に、その可視化・透明化を進めました。これで抜擢人事が可能になり、競争意識が芽生えます。ポジションに対して人材を割り当てるライトプレイス・ライトパーソン(適所適材)が重要です。人に対してポジションを割り当てるという考え方はしていません」(有沢氏)

  • カゴメの職務評価指標

ジョブ型を採用しつつも、在籍している従業員に対してはジョブディスクリプションを作成していないのも、カゴメの人事制度の特徴だ。ジョブディスクリプションではなく、人材要件を明確化することに重きを置いているのだ。これにより、経営陣の後継者候補の育成とその選定に向けたサクセッション・マネジメントのプロセスが効果的・効率的に進むというメリットがある。

  • サクセッションプロセスのイメージ図

サクセッション検討時には、ポジションと育成状況を可視化した候補者マップ、ポジション別の仕事・人材要件の定義を確認できるようになっている。人材要件には、仕事内容ではなく、ミッション、アカウンタビリティ、スキル・能力、求められる経験・キャリアがまとめられている。これは全社に公開されており、従業員側も自身のキャリアを考える際の参考にすることができるのだ。