欧州宇宙機関(ESA)などは2022年7月14日、新しい小型ロケット「ヴェガC」の初打ち上げに成功した。

ヴェガCは従来運用していた「ヴェガ」の改良型で、打ち上げコストは据え置きで打ち上げ能力を向上。近年増加している小型・中型衛星の打ち上げ需要に、高いコストパフォーマンスで応えることを目指している。

ESAなどはさらなる改良型の開発を進める一方、その将来にはロシアによるウクライナ侵攻が影を落とす。

  • ヴェガCの初打ち上げの様子

    ヴェガCの初打ち上げの様子 (C) ESA

欧州の主力ロケットのひとつ「ヴェガ」

フランス、ドイツ、イタリアなどの欧州各国は共同で、欧州宇宙機関(ESA)を通じ、宇宙開発や宇宙科学研究を行っている。ロケットに関しても、ESAの主導、管理下で民間企業とともに開発し、開発後は民間に移管するという形で運用が行われている。

欧州は現在、大型ロケット「アリアン5」、中型ロケット「ソユーズ」、そして小型ロケット「ヴェガ」の、3機種のロケットを運用している。ロケットを大・中・小と揃えることで、多種多様な衛星の打ち上げに柔軟に対応できるようにしている(*1)

このうちヴェガは、イタリアの航空宇宙メーカー「アヴィオ(Avio)」がプライム・コントラクターとなり、欧州各国とウクライナの複数の航空宇宙メーカーが開発、製造しているロケットである。運用は、フランスに拠点を置く「アリアンスペース(Arianespace)」が担当する。

ヴェガという名前は、イタリア語のVettore Europeo di Generazione Avanzata(直訳で「欧州の次世代ロケット」)の頭文字から取られており、また「こと座」のα星(織姫星)の名前でもある。

ヴェガは2012年にデビューし、これまでに21機が打ち上げられ、2019年と2020年に1機ずつ失敗しており、19機が成功している。

ロケットの全長は約30m、直径は約3mで、1~3段目は固体、4段目のみ液体ロケットを採用している。固体ロケットは一度点火すると推進薬がなくなるまで燃焼を止めることはできず、またスロットリング(推力の調整)もできず、さらに性能に個体差もあるといった理由で、軌道投入精度が落ちてしまう。そこで最終段に液体ロケットを使うことで、精密な軌道投入を可能にしている。

打ち上げ能力は高度700kmの太陽同期軌道に約1500kgで、小型衛星の1機単位での打ち上げから、複数の衛星を同時に搭載した打ち上げなどをこなし、ESAの地球観測衛星やフランスなどの偵察衛星など、欧州の官需打ち上げを支えている。さらに世界的な小型衛星の開発や、それを使ったサービスがブーム担っていることを背景に、欧州内外の民間の衛星も打ち上げるなど、ビジネス面でも活躍している。

一方で、ヴェガは1回あたりの打ち上げコストが約3700万ドルとされ、やや高コストという欠点もあった。これはより打ち上げ能力が高いソユーズに匹敵する数字で、低コスト化は必至だった。また、小型衛星の需要は以前に増して高まっており、小型衛星を編隊で運用するコンステレーションといった新たな需要も増えてきた。

そこでESAは、打ち上げ能力の向上や低コスト化、それによるコストパフォーマンスの向上などを図った、ヴェガの改良型を開発することを決定した。それが「ヴェガC」である。

  • ヴェガの20号機

    2021年に打ち上げられた、ヴェガの20号機。これを改良したのが今回打ち上げられたヴェガCである (C) ESA/CNES/Arianespace

ヴェガC

ヴェガCのCとは、「強化」などを意味するConsolidationの頭文字から取られている。それにも現れているように、ヴェガCはヴェガと比べ、全長は34.8mと4.5m伸び、直径も3.3mになり0.3m増加し、一回りほど大きくなっている。

最大の特徴は、第1段の固体ロケットモーターが大型化したことにある。これまではヴェガ専用の「P80」というモーターを使っていたが、ヴェガCでは「P120C」に換装。推力は3050kNから4500kNに大幅に増えた。

このP120Cはまた、開発中の大型ロケット「アリアン6」の固体ロケット・ブースターとしても使用される。同じ部品を共有することで、低コスト化や信頼性向上などのシナジー効果が図られている。

また、第2段の固体ロケット・モーターも、従来の「ゼフィーロ23」から、新型の「ゼフィーロ40」へと換装。こちらも大型化し、性能が向上している。

第3段も、従来の「ゼフィーロ9」に改良を加えた「ゼフィーロ9A」に換装しているほか、第4段の液体段も、従来の「AVUM」に改良を加えた「AVUM+」に換装しているなど、多かれ少なかれ機体すべてに手が加えられている。

こうした改良により打ち上げ能力も大幅に向上し、高度700kmの太陽同期軌道に約2300kgとなっている。このため、従来ヴェガは「small launcher」や「light lifter」、いわゆる小型ロケットと呼ばれていたが、ヴェガCは「medium lifter(中型ロケット)」とも呼ばれている(*2)

こうした打ち上げ能力の向上に加え、フェアリングもヴェガと比べ容積が約2倍に大型化。ヴェガよりも大きな衛星の打ち上げにも対応できる。

さらに、衛星の複数同時打ち上げ能力も向上。ヴェガは1回の打ち上げで2つの異なる軌道への打ち上げが可能だったが、ヴェガCでは3つに増え、小型・超小型衛星もより効率よく打ち上げられるようになっている。

それでいて、アリアン6とのシナジー効果などの低コスト化への取り組みにより、打ち上げコストはヴェガから据え置きとなっており、コストパフォーマンスが向上している。

ヴェガCの開発は2014年12月に、ESAの承認によって始まった。当初は2018年に初打ち上げを迎える予定だったが、技術的な問題に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響もあり、計画は大幅に遅延。4年遅れでの初陣となった。

  • 打ち上げを待つヴェガC

    打ち上げを待つヴェガC (C) Arianespace

  • ヴェガCの機体構成

    ヴェガCの機体構成と、それぞれの製造や試験などの担当国を示した図 (C) ESA-J. Huart

脚注

*1 現在、ソユーズはロシアのウクライナ侵攻に伴い打ち上げが中断している
*2 ただし小型ロケットや中型ロケットの明確な基準がないこともあり、引き続き小型ロケットと呼ばれることのほうが多い