ソフトバンクの法人向けイベント「SoftBank World 2022」が7月28日に開幕した。29日までの2日間完全オンライン形式で開催される。今回のテーマは「ニッポン、変えテク。テクノロジーで、この国のビジネスに革新を。」。同日の基調講演のトップバッターとして登場したのは、ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)取締役会長 兼 社長執行役員の孫正義氏。
ソフトバンクGは2022年度3月期の連結決算で、過去最大となる1兆7080億円の赤字を計上した。前年度(2021年度)は4兆9879億円の黒字と、国内最大の最終利益を達成したが、一転して大幅な赤字に転落した。AI(人工知能)関連のスタートアップなどに投資するビション・ファンドの投資損失が主な原因だった。
そのような状況の中、孫氏は何を語ったのか。講演の内容を紹介していこう。
蛹(さなぎ)への進化で満足していないか
孫氏は冒頭、視聴者にこのような質問を投げかけた。
「子供の時に蝶々を捕まえたことはありますか」
孫氏は幼き頃、その美しさに魅了され、草むらでよく蝶々を捕まえていたという。しかしその昆虫の寿命は短く、死に目に会うのが苦手だった孫氏は、捕まえてから30分以内に虫かごから蝶々を逃がしていた。
ある日、孫氏は蝶々ではなく芋虫を捕まえ大切に育てた。次の朝起きると、その芋虫は木の枝にぶら下がる蛹(さなぎ)の状態になっていた。そしてしばらくした後、孫氏はその蛹が美しいアゲハ蝶へと変わる瞬間を目撃した。
「芋虫から蛹、そして蝶々と、似ても似つかない存在に変化した姿に感動した」ーー。
孫氏はこの出来事を企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に置き換えた。
「FAXをEメールに変えただけではDXとは呼べない。これは芋虫が蛹に変化した程度のことだ。本当のDXとは、蛹からさらに蝶々へと進化することだ」(孫氏)
では、孫氏が言う“蝶々"とは、一体どのような状態を指すのだろうか。
それはデジタル化の先にある「AI革命」だ。「本当の意味でデータをフル活用して、未来を予測し、さまざまな変革をもたらしたときに初めて、DX化に成功したと言えるだろう。このAI革命こそがデジタルトランスフォーメーションの行き着く先だ」(孫氏)
AI普及で遅れをとる日本
ここで日本の現状を見てみよう。米Kaggleが2021年に発表した調査によると、日本企業におけるAI導入率は38%。1位のスイスのAI導入率は63%で、31位の日本は、AIの普及に世界から遅れをとっている。
またAIに理解がある経営層の割合についても、米国では75%だが、日本はわずか24%。AIシステムを実装できるエンジニアの保持率に関しても、米国が62%で日本が11%と大きく差が出ている。1992年に世界で1位だった日本の競争力は、2022年には34位まで落ち込んでしまった。
孫氏は、「ジャパンアズナンバーワンの時代もあった。このままではいけない。なにがなんでも巻き返さなければならない。今、日本で『AIは必要なのか』という時代遅れの議論をしている間に、ほかの先進国各国はどんどんAIを導入し利活用している。そんな議論をしている暇はない」と警鐘を鳴らした。
では、AI革命が進むとどのような恩恵を受けられるのだろうか。孫氏は、「未来が予測でき、社会のさまざまな問題が解決できる。そして新たな価値の創造が可能だ」と説明する。
企業に及ぼすAI革命の影響も大きい。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、AIを活用することで、さまざまなコストは最大50%削減できるという。イノベーションの創出数は約40倍、製品開発スピードは最大10倍にまで成長できるといった調査データも出ている。