信州大学、東京大学(東大)、東京理科大学(理科大)の3者は7月21日、クェーサーの属する銀河周辺の水素ガスの電離レベルが偏っている理由を調べるため、水素ガスを電離させる紫外線の放射方向がある程度推測できる特殊な「BALクェーサー」をすばる望遠鏡で観測したところ、クェーサー内部に存在するドーナツ状の遮蔽構造であるダストトーラス(降着円盤)が、電離レベルの非等方性を引き起こしている可能性が高いことを突き止めたと発表した。
同成果は、信州大 全学教育機構の三澤透教授、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の石本梨花子大学院生、信州大 大学院総合医理工学研究科の古布諭大学院生、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の柏川伸成教授、東京理科大学 教養教育研究院の大越克也教授、信州大 全学教育機構の登口暁PD、埼玉大学大学院 理工学研究科 天文学研究室のMalte Schramm特任助教(研究当時)、信州大 大学院総合理工学研究科の劉強大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
銀河中心の大質量ブラックホールの周囲には落ち込んできた物質やガスなどによる降着円盤が存在し、それが破壊的に強烈な紫外線を放射することで、周囲の水素ガスを電離することが知られている。それは銀河内だけではまらず、銀河から遠く離れた銀河間ガスでも見られるという。
とりわけ活動が激しい銀河核(≒大質量ブラックホール)がクェーサーと呼ばれているが、その紫外線放射は本来なら全方向に対して等方的なはずだが、これまでの観測から偏りがあることがわかっており、その原因として、クェーサーの発光領域を取り囲むダストトーラス、つまり大質量ブラックホールの赤道上に構築される降着円盤の存在が考えられてきた。
過去に観測されたクェーサーが、いずれも降着円盤をほぼ正面(円盤面の全体が見える方向)から見た位置関係にあったとすると、紫外線放射がダストトーラスに遮られる接線方向(横方向)は紫外線が照射されないため、電離レベルは下がるはずである。この仮説を検証するためには、見えている角度が90度異なる、降着円盤を横(円盤の厚みが見える方向)から見る角度でクェーサーを観測する必要があったことから、今回、研究チームは「BALクェーサー」を観測対象として選択したという。
BALとはスペクトル上の特殊な吸収構造のことで、その起源は降着円盤の表面から噴き出す、外向きのガス流である「アウトフロー」にあるとされている。このガス流は、降着円盤に近い角度で放出されることが理論的に予想されていることから、BALを示すクェーサーは、降着円盤を横から見ている可能性が高いと考えられている。そのため、接線方向はダストトーラスで覆われなくなるために電離レベルが上がり、吸収線が減少することが予想されたためだとする。