具体的には、分子研の放射光施設UVSORに設置された2台のアンジュレータを用いて行われた。2台の間には電子に回り道をさせる特殊な装置(位相子電磁石)が組み込まれており、電子が放射する波束のペアの時間間隔を数アト秒の精度で調整することが可能だという。

  • アンジュレータによる放射光発生の模式図

    アンジュレータによる放射光発生の模式図。(a)放射光パルスの時間幅は、電子集団の空間的拡がりで決まる。(b)放射光パルスには、個々の電子が放射した多数の波束が含まれている。(c)今回の研究で用いられたアンジュレータでは、10回だけ振動する長さ数フェムト秒の波束が発生する。2台のアンジュレータを並べると、波束のペアを生成可能だという (出所:プレスリリースPDF)

今回の研究では、放射光パルス中に埋もれている波束の時間構造を調べるため、新たにマッハツェンダー型干渉計が製作され、計測に用いられた。同干渉計は、アンジュレータからの光(まずは紫外線)をビームスプリッターで二分割して、異なる経路を通過させた後に再び合流させるというもので、片方の経路の長さを少しずつ変えることで、分割した光同士を干渉させられ、それによって干渉波形を計測できるという仕組みだという。

研究に用いられたアンジュレータは電子が10回蛇行する仕組みであり、10組の山と谷からなる波束が放出される。実際に干渉計の結果でも、アンジュレータからの放射がちょうど10個の山谷からなる波束であるという理論的予想と一致する結果が得られたとする。

  • マッハツェンダー干渉計で観測した1台のアンジュレータからの放射の自己干渉波形

    (a)マッハツェンダー干渉計で観測した1台のアンジュレータからの放射の自己干渉波形。(b)(a)の計算値。よく一致した。(c)10個の山谷からなる波束同士を時間をずらしながら干渉させると、(a)と(b)のような干渉波形が得られる (出所:プレスリリースPDF)

また、2台のアンジュレータからの光を観測したところ、干渉波形が3つ観測できたという。両側の2つは、2つ続けてやってくる波束の前の部分と後ろの部分が相互に干渉したものだという。さらに、2つの波束の時間差を変えると、これら干渉模様の間の時間差も変化する様子が観測できたとのことで、これらの結果は、10個の山谷からなる波束が2つ続けてやって来ていること、また、その波束の間の時間差を精密に制御できていることが示されていると考えられると研究チームでは説明する。

  • 直列に2台配置されたアンジュレータからの放射の自己干渉波形

    直列に2台配置されたアンジュレータからの放射の自己干渉波形。連続してやってくる2つの波束のそれぞれが自身と干渉することに加え、前の波束と後ろの波束が相互に干渉することで、3つの干渉波形が現れる (出所:プレスリリースPDF)

このほか、放射光が得意とする極端紫外線やX線の波長域においても、同様の波束が生成されることを確かめる実験も実施。ただし、それらの波長が短い電磁波は、マッハツェンダー干渉計で調べることは困難なため、極端紫外の波長域で2台のアンジュレータが発する波束の時間間隔を、原子の量子状態の干渉を利用して精密に測定することにしたとする。その結果、紫外線と同様に数アト秒で波形が制御されていることが判明。アンジュレータを使うことで、極めて高い時間精度で波形が制御された波束を、さまざまな波長域でも発生できることが示されたという。

なお、今回の研究成果について研究チームでは、レーザー光源に比べて、時間特性が劣ると思われていた放射光源が優れた時間特性を持っていること、またその時間特性を精密に制御できることを示すものであるとしており、将来的にはアト秒スケールで進行する超高速反応を放射光で観察したり制御できたりするようになる可能性が出てきたとしている。