北海道大学(北大)は6月24日、量子光学原理の「振動強結合」を応用することにより、電解質水溶液のイオン伝導度を最大で1桁以上向上させることに成功したと発表した。

同成果は、北大大学院 理学研究院の福島知宏講師、同・村越敬教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

通常のイオンは分子の並進拡散によって動くとされ、中でも水溶液中でのプロトン(陽子=水素陽イオン(H+))伝導は、プロトンをバケツリレーのように受け渡しながら動いていくことが知られている。もし、そうしたイオンが溶け込んでいる電解質水溶液において、イオン伝導度を向上させることができれば、エネルギー損失の少ない有効な電気化学エネルギー変換が可能となることが期待されている。

これまでの研究から、電解質水溶液においてはイオンが動くときの動的水素結合ネットワークの存在が重要であることが理解されてきたが、一般に水の動的物性は制御できないため、イオン伝導度の向上は困難とされてきた。

一方、量子光学の分野においては、振動強結合と呼ばれる分子の物性改革手法が知られつつあり、これまでの研究で、化学反応の制御や結晶化過程の制御などが可能とされており、分子間の相関や基底状態でのポテンシャルエネルギーを変化させることが提案されてきた。そこで、イオンのとりまく水分子の動的物性を制御可能とする振動強結合を用いることにより、電解質水溶液におけるイオン伝導度の向上が見込めるのではないかと研究チームでは考察したという。