東京農工大学(農工大)は6月20日、2つの芳香環を平行配列させた際に生じる「π-π相互作用」のこれまで未開拓であった性質(空間を介した電子調節効果)を基盤とした、新しい有機分子触媒の開発に成功したことを発表した。

同成果は、農工大大学院 工学府の山本雄貴大学院生、同・井上愛子大学院生、同・酒井暖大学院生、同・大多和柚奈大学院生、同・大学院 工学研究院 応用化学部門の森啓二准教授らの研究チームによるもの。詳細は、有機化学とその関連分野全般を扱う学術誌「Tetrahedron Letters」に掲載された。

複数の芳香環が集積した際に生じるπ-π相互作用は、重要な非共有結合性相互作用とされており、タンパク質の高次構造やDNAの二重らせん構造の安定化、ホスト分子によるゲスト分子の捕捉など、多岐にわたる場面で活躍していることが知られている。

代表的な非共有結合性相互作用として知られる「水素結合」は、有機分子触媒の分子設計に数多く利用されていることから、π-π相互作用にも同様の応用がこれまで期待されてきた。しかし、今のところその報告例は極めて少ない状況だという。しかも、その利用法は分子の「安定化や空間的な固定化」に限定されており、電子的環境の変化に関わる「電子調節機能」として利用した例は、触媒分野に限らず、皆無だったとする。

水素結合に比べてπ-π相互作用の利用例が少ない理由として、相互作用エネルギーが弱いことが考えられており、π-π相互作用を基盤とする触媒の設計にあたっては、「どのようにして弱い相互作用であるπ-π相互作用を効果的に機能させるか」が鍵になるとされている。