名古屋大学(名大)、京都大学(京大)、慶應義塾大学(慶大)、科学技術振興機構(JST)の4者は6月17日、神経回路の役割を明らかにするために、グルタミン酸受容体を細胞種選択的に活性化できる新たな「配位ケモジェネティクス法」を開発したことを発表した。

同成果は、名大大学院工学研究科の清中茂樹教授、京大大学院工学研究科の浜地格教授、同・小島憲人大学院生(研究当時)、慶大医学部生理学教室の柚﨑通介教授、同・掛川渉准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「NatureCommunications」に掲載された。

ヒトの脳にはおよそ1000億個ほどの神経細胞が存在しており、それらはシナプスを介して互いに結合して複雑な神経回路を形成している。脳の高次機能は、そのような複雑な神経回路網によって生み出されるため、脳機能の理解するためには、こうした神経回路の配線を理解することが重要とされてきた。

シナプスにおいて主要な情報伝達を担っているのは、神経伝達物質であるグルタミン酸とそれを受け取るグルタミン酸受容体であり、この受容体は、情報伝達に加えて記憶や学習といった能の高次機能に必須の役割を果たすと考えられている。しかし同受容体は、さまざまな種類の神経細胞に発現しているため、どの神経回路のどのシナプスに存在する受容体が重要であるのかについては、受容体に対する選択的な活性化剤を用いる従来の“薬理学的な”手法では、各神経細胞種の機能解明は困難だったという。

そこで研究チームは今回、運動機能や運動学習を支える小脳神経回路において重要な役割を果たす「代謝型グルタミン酸受容体1型」(mGlu1)に着目。mGlu1を細胞選択的に活性化する方法論を開発し、小脳における細胞種選択的なmGlu1の活性化および機能解明を目指すことにしたとする。