3Mは、2024年までに世界23か国100か所の通学路で歩行者の視認性と道路の安全性の工場を目指す「スクールゾーン・プロジェクト」を2022年3月からグローバルで開始した。

「3m以内に3M製品」というほどさまざまな製品群を持つ3M。今回、なぜ同プロジェクトを開始するにいたったのだろうか。

今回、スリーエム ジャパンの常務執行役員 トランスポーテーション&エレクトロニクスビジネスの伊藤誠氏とトランスポーテーションセーフティ事業部 マーケティング部マネージャーの稲葉亮氏に、同プロジェクトについてお話を伺った。

スクールゾーン・プロジェクト開始の背景には、製品を販売するだけにはとどまらない3Mの信念や、掲げるミッションがあった。

反射材の交通安全への効果

同プロジェクトを主導するのは、3Mで道路標識や交通関係の“反射材”を主に取り扱う「トランスポーテーションセーフティ事業部」。

普段はあまり気に留めていないかもしれないが、交通安全に反射材が寄与する部分はとても大きい。

例えば、夜間において車のドライバーから歩行者が視認できる距離は、黒っぽい服装の場合は約26m、明るい服装だと約38m、そして反射材を身に着けている場合は57m以上先だという(引用:山口県警 光って知らせる反射材)。

ドライバーが歩行者を発見して停止するまでには、時速60kmだと44mの距離を必要とするため、黒っぽい服装や明るい服の場合、発見してからブレーキをかけても間に合わないのだ。

しかし、反射材を身に着けている場合は、57m以上の視認距離があるため、歩行者を発見してからでも、ブレーキをかけて止まることができる。

猫の目がヒントに! 反射材、進化の歴史

このように視認性の向上に貢献している反射材も、日々の研究によって進化を遂げてきた歴史がある。

そもそも反射材は、光を光源に戻す「再帰性反射」の原理を用いたものだ。

初期の反射材はプリズム式といい、自転車の後ろなどについている赤いプラスチック製の反射材を想像していただけるとわかりやすいだろう。プリズム式の反射材は、厚く、サイズも小さいため、道路標識など薄さが求められる製品には向いていないという弱点があった。

そんな時に3Mの研究者が、猫の目が夜に光っているのを見て、球体のガラスビーズを用いることを思いついたという。

そして生まれたのがガラスビーズ素子を用いた「ガラスビーズ式反射材」だ。シートの上にガラスビーズを撒くことで再帰性反射が起こる。小さなガラスビーズを用いるため、薄く、サイズが大きな反射材を実現できたのだという。

  • 3Mの技術者が猫の目を見て思いついたという、ガラスビーズ素子を用いた反射材

    3Mの技術者が猫の目を見て思いついたという、ガラスビーズ素子を用いた反射材 (提供:スリーエム ジャパン)

ガラスビーズ式をさらに進化させたものが「マイクロプリズム式反射材」だ。現在の道路標識などにはこの方式のものが主に使用されているという。シート面に三角錐の形をしているプリズム素子を配置することで、再帰性反射がおきる仕組みだ。

3Mはこの通常のマイクロプリズム式の反射材の2倍の輝度を持つ技術「フルキューブ」型の反射材を開発した(3Mではこの技術が使用された製品を「ダイヤモンドグレード」として販売している)。

マイクロプリズム式の反射材は、シート状に並べた三角錐のプリズム素子のうち、30%は反射に寄与していなかったという。

そこで、反射に寄与している部分だけを抽出してシート状に並べることで、通常のマイクロプリズム式の2倍の輝度を実現するに至った。

  • 左が通常のマイクロプリズム式の拡大写真、右が3Mのフルキューブ型の拡大写真。青で四角く囲った部分が反射に寄与している部分。右側のフルキューブ型はその部分を抽出して並べることで輝度を高めたという

    左が通常のマイクロプリズム式の拡大写真、右が3Mのフルキューブ型の拡大写真。青で四角く囲った部分が反射に寄与している部分。右側のフルキューブ型はその部分を抽出して並べることで輝度を高めたという(提供:スリーエム ジャパン)

このように、さらなる視認性や機能性の向上を目指し、3Mは日々研究を続けている。