PwC財団は6月3日、財団設立の趣旨やこれまでの取り組み、今後の活動方針などを説明するメディア向け発表会を開催した。

「プログラムオフィサー」が助成事業に伴走、プロジェクトを支援

同財団は、PwC Japanが2020年5月に設立した、革新的なテクノロジーを活用して社会課題に取り組もうとする団体の活動支援を目的にした団体だ。一般財団として設立し、2021年5月に公益財団に移行、これまで、「農福連携」「医療」「環境」など5つの事業において、7つの団体に助成を行ってきている。

  • PwC財団が立ち上げた助成事業の一覧(2022年6月時点)

発表会に登壇したPwC財団 代表理事の安井正樹氏は「PwCグループ全体で、『社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する』をパーパスに、この10年、さまざまな事業活動を続けてきた。だが、営利企業であるが故に、深刻な課題があるとわかっていても利益が出ない領域には手をつけにくい、という課題があった。自社のパーパスを達成するには、この課題に取り組む必要があると考え、今回、財団法人という新たなプラットフォームを設立した」と財団設立の趣旨を説明した。

  • PwC財団 代表理事 安井正樹氏

今後、PwC財団では社会課題解決に取り組む団体へ助成金を交付する助成事業のほか、災害への義援金・支援金を支給する災害支援事業にも取り組む予定だ(災害支援事業は現在調整中)。

助成事業では、解くべき課題(プログラム)をPwC財団で設定し、Webサイトなどでテーマ・課題などを公開して助成先の公募を行って選定する。同財団の助成スキームの特徴は、PwC財団が独自にテクノロジーを活用した課題解決の仮説を立てたうえで、応募団体からは基本的にテクノロジーを利用した応募を募るところにある。

また、助成金を交付するだけでなく、同グループのコンサルタントが財団と出向契約を結び、「プログラムオフィサー」というプロジェクトを伴走支援するパートナーになる。なお、助成事業で活用された技術、開発されたシステムなどの知的財産権は助成先団体に帰属する。

  • PwC財団の助成事業のスキームの特徴

PwC財団 事務局長の日向昭人氏は、「ブレイクスルーを必要とする社会課題においては、やりたいことはクリアだけど方法がわからないといったことが往々にしてある。そこで、当財団ではグループのこれまでの業界支援、コンサルティングでの経験・知識、現場の当事者から得た声や意見などを活用して、具体的な事業領域や解くべき課題を設定。課題に対して最も社会的なインパクトを得られるテクノロジーを有する団体を採択する」と方針を語った。

  • PwC財団 事務局長 日向昭人氏

助成対象は、すぐに実用化できなくても社会課題の解決につながる可能性のあるテクノロジーを有する団体も対象としているという。5つの事業では、創業1年のスタートアップから創立50年の公益社団法人、高専からも応募があった。

サービス化を見据えて、産官学巻き込んだエコシステム形成を目指す

発表会では推進中の3つの事業のうち、「人間拡張技術を活用した農福連携」事業の結果報告が行われた。人間拡張技術は、遠隔地にいるロボットをアバターとして利用して、自分が遠隔地に存在しているような体験を可能にする技術を指す。また、農福連携は障害者などが農業分野で活躍することを通じて、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取り組みのことだ。

同事業では、「都市一極集中型の社会構造」「地方の農業従事者数の減少と高齢化」「障害者の社会参画機会の制限と低賃金」の解決を目標とする。そして、3つの目標のソリューションとして、遠隔地にいる障害者や農業に参加したことのないユーザーがスマートフォンアプリで農作業ロボットを操作し、農業参加できるシステムとそのサービスRaraaS(ララース、RemoteAgricultural Robot as a Service、遠隔農業ロボットサービス)の提供を目指す。

助成先団体には、人間の能力を引き出すための支援ツールとAI(人工知能)の企画、研究などの事業を展開する民間企業H2Lが選ばれた。事業の第一段階(STEP1)は終了し、今後は現場での導入や本サービス展開などに向けて、プロジェクトを継続していくという。

  • 「人間拡張」をテーマとした助成事業の概要と今後

今回の事業では、遠隔地で作業を実施するロボットや収穫用のアーム開発、スマホ操作とそのためのインターフェースなどのシステム開発、収穫作業のオンライン体験会などを経て、茨城県のイチゴ農園で収穫作業を行う農地試験が行われた。

  • 助成事業で開発したハードやスマホアプリ

  • スマホアプリを使った収穫体験会の様子

  • イチゴ農家で実施した農地試験の様子

H2Lの社内で疑似的な栽培環境を作って実施された、オンライン体験会では、収穫のための操作が可能なのかバナナとイチゴを使って実証が行われた。

アプリをダウンロード・インストールしてから講習を行い、作業開始までにかかった時間は平均12分間で、作業の成功率はバナナが100%、イチゴが96%だった。一方、まずは広く利用してもらうため、子供や障がい者だけでなく都市部にて一般向けにプレスリリースを実施したが、体験会への参加者は75人(目標400人)だった。

同事業のプログラムオフィサーを務めたPwCコンサルティング ディレクターの三山功氏は、「農地試験での結果は良好だったが、農家のイチゴ農園の方の話を聞くと、重量のある収穫物への転用や農場内の移動制御(レール、 コンクリ、土、傾斜)など、技術開発でクリアしなければいけない課題も見えてきた。また、サービスパッケージとして展開するうえでは、同時多発的に複数の助成事業を展開し、産官学を巻き込んでDXエコシステムを形成しつつ、一般への周知や啓もう活動も重要になる」と振り返った。

  • PwCコンサルティング ディレクター 三山功氏

同事業では、ステークホルダー(病院、自治体など)との連携や遠隔農業サービスパッケージ化、高重量農作物の省人化技術開発、社会でのモメンタム形成を目的とした外部向け講演会・シンポジウムの実施など、4つの実証を進めていき、今後5年で農福連携につながる人間拡張技術の社会実装を目指すという。