北海道大学大学院農学研究院、総合地球環境学研究所、京都大学防災研究所、大阪大学大学院工学研究科らの研究グループは、大雨を伴う台風は森林倒壊のリスクを増大させることを明らかにした。

詳細は学術雑誌「Forest Ecology and Management」に掲載されている。

既存の研究では、強風による森林倒壊メカニズムについて多く検討がなされてきた。

しかし、世界的な気候変動の影響で、今後は台風に伴う雨量増加が懸念されているなか、実は強風と大雨による森林倒壊メカニズムについては未解明な点が多く残されているという。

将来の林業被害やインフラ破壊を最小限に抑えるには、これら未解明な点を解明し、森林管理における適応策を見出すことが求められる。

研究グループは、2016年8月下旬に北海道に上陸した3つの台風による森林被害(道南325km2)を対象に調査・解析を行った。

調査では、森林倒壊の現場にて根返りと幹折れの状況を確認した。また解析では、衛星画像にて倒壊地を地図化し、倒壊に関連しそうな気象、地形、森林などの変数17個を全域で計算した。

台風の進路や風速はシミュレーションによって再現し、それを基に、森林倒壊が発生しやすい場所を予測できる勾配ブースティングモデルを構築した。

調査・解析の結果、森林倒壊は強風だけでなく大雨も影響することが分かった。

  • 台風による森林倒壊を予測するモデルにおける予測変数の重要度。Topex(nkm)はnkm解像度での地形変数

    台風による森林倒壊を予測するモデルにおける予測変数の重要度。総雨量も関係することがわかった(出典:北海道大学)

  • 森林倒壊を予測する主要な変数の部分依存プロット。モデリングに使用したサブサンプルの閾値内で描かれている。各グラフで着目した変数以外は実測値を使用

    森林倒壊を予測する主要な変数の部分依存プロット。モデリングに使用したサブサンプルの閾値内で描かれている。各グラフで着目した変数以外は実測値を使用(出典:北海道大学)

具体的には尾根筋※1の森林や斜面方位と同じ方角(正面)から強風を受けた森林は、風当たりが強く倒壊しやすい。さらに、降雨量が多いほど倒壊しやすくなるが、その感度は優占樹種※2によって異なることが分かった。

  • 森林倒壊確率に対する優占樹種と総雨量の相互作用。説明変数の最小値での倒壊確率の期待値を0として各グリッドの倒壊確率の期待値を表現。●は観測値。プロットが密集しすぎるため300のグリッドを無作為にサンプリングして描いた

    森林倒壊確率に対する優占樹種と総雨量の相互作用。説明変数の最小値での倒壊確率の期待値を0として各グリッドの倒壊確率の期待値を表現。●は観測値。プロットが密集しすぎるため300のグリッドを無作為にサンプリングして描いた(出典:北海道大学)

感度が高い樹種は、感度が低い樹種と比較し側根密度が低い傾向にあり、倒壊メカニズムに深く関与している可能性がある。したがって、大雨を伴う台風に対する森林管理上の適応策として、尾根筋への造林を避ける、側根密度の高い樹種で造林するなどが有効であることが明らかとなった。

今回新たに発見された強風と大雨が森林倒壊を引き起こすメカニズムについて、研究グループはいくつかの仮説を立てた。

  • 研究グループが立てた仮説

    研究グループが立てた仮説(出典:北海道大学)

そして、今後は実験やモデリングなどで仮説を検証していく必要があるとした。

文中注釈

※1:尾根となって続く稜線
※2:当該林文(隣の森林と区別できるひとまとまりの森林)を構成している樹種の中で、単位面積あたりの材積や平均サイズが最も大きい樹種