KDDI総合研究所と名古屋工業大学は5月24日、テラヘルツ帯で電波の放射方向を変更できる高利得なマルチビームレンズアンテナと、小型な平面型マルチビームアンテナの開発に成功したことを発表した。

テラヘルツ帯は電波の直進性が高く遠くまで届きにくい性質を持ち、利得の高いアンテナが求められる。しかし利得の高いアンテナはビームが鋭いため、ユーザー端末の場所が動く移動通信におけるテラヘルツ帯の実用化に向けては、ビーム方向を変更可能なアンテナが必要だ。

一方で、スマートフォンなどのユーザー端末は筐体のサイズによるアンテナ数や最大の送信電力などの制約がある。これに対し両者は、端末が周辺のさまざまなデバイスとテラヘルツ帯で協調し、各デバイスに搭載されたアンテナを仮想的に束ねて一つの端末として動作する「仮想化端末」を提案している。

  • 「仮想化端末」コンセプトイメージ

    「仮想化端末」コンセプトイメージ

今回両者が開発したのは、300ギガヘルツ帯でビーム方向を変更可能なマルチビームアンテナだ。高利得なマルチビームレンズアンテナと小型な平面型マルチビームアンテナの2種類で、両アンテナとも60度の角度でビーム方向を変更可能だという。

  • 今回開発した2種類のマルチビームアンテナ

    今回開発した2種類のマルチビームアンテナ

高利得なマルチビームレンズアンテナはレンズと1次放射器(ホーンアンテナ)で構成され、接続するホーンアンテナを切り替えることによりビーム方向を変更する。レンズにテラヘルツ帯で誘電損失の小さい素材を選定し、レンズ形状とホーンアンテナの配置を最適化したことで、ピーク利得が27dBi(等方性アンテナと比較して約500倍)、60度の範囲で利得が22dBi(同約160倍)以上となる高利得を達成したとのことだ。

  • マルチビームレンズアンテナの構造と特性

    マルチビームレンズアンテナの構造と特性

小型平面マルチビームアンテナはマイクロストリップコムラインアンテナとビーム形成回路で構成され、ビーム形成回路の接続ポートを切り替えることでビーム方向を変更する。

  • 平面型マルチビームアンテナの構造と特性

    平面型マルチビームアンテナの構造と特性