金沢大学は5月13日、ごく基本的な化学構造を持ちながらも、長らく実在が確認されていなかった“幻のイオン”とも称される「テトラフェニルアンモニウム」の合成に成功し、その存在を実証したと発表した。

同成果は、金沢大 医薬保健研究域薬学系の藤田光助教、同・国嶋崇隆教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ベンゼン環といずれかの元素のみから成る化学構造は、有機化合物の最も根源的な骨格の1つとされ、重要視されている。その中で、周期表の13~15族の代表的な元素(ホウ素、炭素、アルミニウム、ケイ素、またはリン)に4つのベンゼン環が結合した構造は「テトラフェニル」型と総称され、窒素を中心元素とする場合は、アンモニウム([NH4]+)を母体のイオンと見なし、テトラフェニルアンモニウムと呼ばれている。

テトラフェニル型は最も新しいものでも70年以上前に合成に成功しており、最も古いものは140年近く前まで溯るが、テトラフェニルアンモニウムだけは人工的に作り上げることが困難なため、明確な構造同定を伴う合成報告はこれまで行われていなかった。また、自然界からも発見されていないことから、そもそも同イオンが存在可能なのかどうかすらも、明確ではなかったという。

  • 13~15族の代表的な元素を中心に持つテトラフェニル型の化学構造

    13~15族の代表的な元素を中心に持つテトラフェニル型の化学構造。カッコ内には合成が達成された年が示されている (出所:プレスリリースPDF)

ただし、テトラフェニルアンモニウムに関しては、合成法や入手法を記載することなくその用途のみを想定・言及している文献や、化学構造だけを収録している化合物データベースが公開されているため、あたかもこのイオンがすでに知られているかのように扱われることがある。

しかし実際には、誰一人としてその姿を見た者はいないため、まさに“幻のイオン”といえる状況だったという。そこで研究チームは今回、斬新な合成戦略を打ち立てることでテトラフェニルアンモニウムの合成に挑むことにし、それを成し遂げたとする。