KDDI、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインらが構成するバーチャルシティコンソーシアムは4月22日、メタバースおよび都市連動型メタバース業界の発展に向けた「バーチャルシティガイドライン Ver.1」を策定し、記者説明会を開いた。
都市連動型メタバースとは、メタバースを拡張した概念として示される。実在する都市のステークホルダーと連携して、実在する景観や文化をモチーフとしたメタバース空間の経済圏と実在都市の経済圏が連動するような、リアル空間の拡張を志向するような世界観だ。
同ガイドラインの策定にあたっては経済産業省と渋谷区をオブザーバーに加え、KDDIらが所属する渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトによる「バーチャル渋谷」の運営から得られた知見などに基づき、メタバースを設立および運営する場合の注意点や検討事項をまとめたという。
ガイドラインの内容はバーチャル渋谷に反映させるだけでなく、ほかのメタバースプラットフォーマーや関連事業者への展開を進める。さらには国内外への適用を促し、利用者や事業者、プラットフォーマーなどが安心安全に活用できる空間づくりを目指すとのことだ。
バーチャルシティコンソーシアムの代表幹事であり、KDDIの事業創造本部で副本部長を務める中馬和彦氏は「今回のガイドラインVer.1は具体的な提言というわけではなく、渋谷区とバーチャル渋谷の実例に基づいた課題提起が主な内容である。2022年度中を目途に、具体的な提言を行うためのVer.2の策定に取り組む」と説明した。
昨今メタバースと呼ばれるインターネット上の仮想空間での生活やビジネスが注目を集めている。その一方で、現在発展途上であるメタバースにおいては、デジタルデータの所有権やアバターの肖像権などが現行法が適用されないなど、議論すべき課題も多い。
また、バーチャル渋谷に代表されるような、リアルな世界とメタバース世界が相互に経済圏を融合する「都市連動型メタバース」の運用においては、ビジネスの在り方や景観の再現性、自治体との経済的連携なども整備が追い付いていない。
そこで同コンソーシアムは、都市連動型メタバースで重要視するべき指針をまとめた文書として、ガイドラインと共に「バーチャルシティ宣言」を発表した。宣言内では「バーチャルシティはほかのメタバースと異なり、実空間を代替することは目的としない」と述べている。人々の生活圏を拡張するための新たな空間としてバーチャルシティを捉えているという。
さらに、メタバース空間内での人々の創作活動を促すとともに人の多様性を開放する方針など、宣言は7項目の指針を示している。ブロックチェーンなど最先端の技術を活用してユーザーの権利を適切に保護するほか、民主的なルール作りも推し進めるとしている。
「バーチャルシティガイドライン Ver.1」における主要トピックは、さまざまなメタバースや都市連動型メタバースに共通して整理が必要と思われる4項目と、都市連動型メタバースに特化して整理が必要と思われる3項目の計7項目から構成される。
前者のトピックとしては、ユーザーの創造性を促してコンテンツを安心して発信できる環境を確保するため、ブロックチェーン技術など日中央集権化した分散技術を活用したクリエイターエコノミーの活性化が重要としている。
また、UGC(User Generated Contents:ユーザーが生成したコンテンツ)の著作権を保護するために、アバターやデジタルデータなどの創作物は創作者に著作権が帰属することを前提としながらも、ユーザーの権利とプラットフォームの円滑な運営のバランスが重要であるとしている。オープンライセンスの付与体制など、デジタル空間ならではのn次創作も活性化できる柔軟な仕組みも必要になるだろう。
メタバース内では、従来のオンラインゲームに見られる課金型のアイテム購入だけではなく、ユーザー同士によるデジタルデータの売買も加速する見込みだ。こうした環境においては、データやデジタルアセットの所有など、現行法では保護されないがメタバースで保護されるべきユーザーの権利が新たに生じる。これに対してガイドライン内では、事業者横断的な連携のもとでユーザー目線での仕組みの設計が重要だとしている。
メタバースと都市連動型メタバースに共通して整理が必要と思われる項目の4点目は、アバターの肖像権やパブリシティ権の在り方だ。3Dスキャナーなどを使ってユーザー固有の外見がアバターに実装されるようになると、スクリーンショットで撮影されたアバターの外見に対する肖像権の問題が顕在化する可能性が高い。一方で、アニメ調にデフォルメされた外見のアバターにおいては、原画の著作権およびライセンスの帰属先が課題となり得る。有名なアカウントのアバターに対するパブリシティ権、あるいはそれに類する権利の扱いなども議論が必要になりそうだ。
都市連動型メタバースで整備が必要な項目として、実在都市の景観の再現性が挙げられる。都市の景観をメタバース内で再現する場合は必ずしも完全な再現が必要なわけではなく、景観の改変に際して住民の合意などは不要だ。その一方で、メタバースの活用によって住民の私生活が脅かされないような配慮などを含め、自治体や地域団体との関係性構築は重要となる。
また、都市連動型メタバースは公共性が高くなりやすい性質を持つことから、自治体などの活動をメタバースでも実施しやすいように公共性を設定することが望ましいと考えられる。さらに、都市連動型メタバースではリアル空間とバーチャル空間がそれぞれ独立せずに融合し、機能や事業面を通じた連動性を志向していることが望ましいのだという。