インターネット上に膨大な数の広告が掲出される現代、企業のデジタル広告が知らないうちにフェイクニュースを扱うようなWebサイトや不適切なアプリケーション上で配信され、ブランドを毀損されてしまう事例が確認されているという。
こうした事態に対して、適切なサイトやアプリケーション上で、適切なユーザーに広告が表示されているかを管理する仕組みとして、「アドベリフィケーション」が注目されている。
そこで今回、アドベリフィケーションのノウハウを提供するDoubleVerifyの日本法人代表を務める武田隆氏に、アドベリフィケーションで重視したい指標と最新の動向を聞いた。
膨大な量のニュース関連のコンテンツの中から、信頼できるニュースを識別するのは非常に難しい。正しいニュースよりも偽のニュースの方が伝わるスピードが早いとする調査結果もあり、コロナ禍でのトイレットペーパー買い占めなど、現実社会に大きな影響を与える例もある。
アドベリフィケーションが注目されるきっかけとなったのは、2017年ごろに起きた、YouTubeに公開されたテロを助長する動画に大手企業の広告が出ていたという出来事だ。この出来事はブランドイメージを大きく毀損するとして、多くの企業が広告出稿を停止する契機となった。
これにより、広告がブランドにとって適切なコンテンツ上に表示されているかを重視する「ブランドセーフティ」という考え方が興り始めた。
また一方で、ディスプレイ広告はWebページ上で表示された回数に応じてコストが発生する手法を取る場合が多く、実際にユーザーの目に触れたか否かにかかわらずコストが発生し、ユーザーが視認していない広告のために支払う広告費が膨れ上がっている。また、不必要な広告を表示させることで、広告費を不正にかすめ取るような事例も見られ始めた。
こうした背景を受けて、実際に広告を視聴している時間や量を測定する「ビューアビリティ」という考え方も興った。さらに、広告詐欺や不正によって広告費を搾取する「アドフラウド」、広告が指定した適切な地域で表示されているかを測定する「位置情報」なども、アドベリフィケーションの主な指標として主流になっている。
アドベリフィケーションが重要視される一方で、特定のチャンネルやキーワードを避けて広告を配信するためのリスト活用が進むと、「受け入れることができない」サイトが増加するばかりであり、本来は配信できるような配信先も自動的に排除しかねない。これにより、広告主のリーチを制限するまでにリストが膨れ上がる事態にも発展したという。
そこで近年は、避けることを主眼においた「ブランドセーフティ」から、ブランドにとって適した場所を見つける「ブランドスータビリティ」という考え方へと変化しているとのことだ。サイト単位ではなくページ単位で広告表示を制御するほか、広告主の業種業態に応じてサイトに表示するコンテンツの許容範囲を変更するなど、動的な広告表示が求められる。
ここまで、アドベリフィケーションが重要視されるようになった背景を振り返った。アドベリフィケーションを構成する主な各指標についてもう少し深掘りする。
「ブランドセーフティ」および「ブランドスータビリティ」は、インターネット広告が適切なWebページ上で表示されていることを示す指標だ。広告の掲載先が違法なサイトや不正なサイトではないかを確認し、広告主をブランド価値を毀損するリスクから守る仕組みだ。
「ブランドセーフティ」はアダルトコンテンツやテロリズムなど多くのブランドにとって普遍的にリスクとなり得るサイトを避けるのに対し、「ブランドスータビリティ」はブランドごとの特性に応じて広告配信を制御するという違いがある。配信先のWebサイトが、エンターテインメントなど特定のブランドには適している一方で、ビジネスなど別のブランドには適していないような場合に、ブランドスータビリティを制御するソリューションを活用することで、ブランドとして安全な広告配信先にリーチを損なうことなく広告を配信できる利点がある。
「ビューアビリティ」は、ユーザーが実際に視認できるインプレッションだけを追跡する指標だ。ユーザーに見てもらえる可能性があった広告を評価する。IAB(Interactive Advertising Bureau:米インタラクティブ広告協会)の基準では、「広告の50%以上の領域が1秒以上画面に表示された」場合を広告が見られる状態になったと判断している。
「アドフラウド」とは無効なインプレッションやクリックによって、広告費用に対する成約件数や効果を不正に水増しする不正な手法だ。広告詐欺などとも呼ばれる。DoubleVerifyでは、デスクトップやモバイルアプリだけでなく、コネクテッドテレビ広告への対応も開始しているとのことだ。
「位置情報」はジオターゲティングなどとも呼ばれ、広告が指定したエリアに正しく表示されているかを計測する指標だ。ターゲットした特定地域内での広告配信量を担保し、地域属性を考慮した広告配信を実現する。
さて、近年は個人情報を適切に保護する観点から、大手のプラットフォーマーを筆頭にCookieレスへ舵を切る潮流が強まっている。広告主はこの新たな環境の中で、広告のクリック率やリーチ数といった従来の指標に頼らない、新たなパフォーマンスの発揮が求められる。
武田氏は「アテンションメトリクス」と呼ばれる新たな概念を教えてくれた。アテンションメトリクスとは、ユーザーが実際に広告の前にいたのか、ユーザーが広告とどのようにエンゲージしたのか、あるいは広告がユーザーの持つ端末でどのように露出されたのかを評価軸とする指標であり、従来の指標よりも広告効果を正確に測定できるはずだ。
アテンションメトリクスを正確に把握し適切な広告効果測定のためにも、今回紹介した、アドベリフィケーションを構成する4要素「ブランドセーフティ/ブランドスータビリティ」「ビューアビリティ」「アドフラウド」「位置情報」が重要となる。
コネクテッドテレビやモバイルアプリなど従来以上に広告の配信先が増え、運用される広告の数そのものも増えている。武田氏は「各企業のサービスやビジネスモデルによって特に注視すべき指標は異なるが、数値の増減に一喜一憂するのではなく、自社ブランドの成長に合わせた継続的な取り組みが重要だろう」と話していた。