実際に、温度感受性の高いこれらのKaiC変異体に対し、そのタンパク質分子全体に散在する水素原子の運動についての観察が行われ、得られたデータの分析から、KaiC内部の原子の運動は、一般的なタンパク質と同様に温度上昇に伴って加速される(信号幅が広がる)ことが判明。この結果は、温度補償された野生型KaiCだけでなく、加速型や減速型のKaiC変異体でも同様だったという。

一方で、温度感受性が高まった2種類のKaiC変異体においては、分子の全体運動が野生型KaiCよりも顕著に遅くなっていることが共通して確認されたともしており、これらの結果について研究チームでは、KaiCの分子全体にわたる運動が、温度による加速・減速を防いで反応を一定に保つ自律制御に深く関わっていることを示唆するとしている。

  • KaiCの揺らぎ運動と時計機能の温度依存性

    KaiCの揺らぎ運動と時計機能の温度依存性 (出所:J-PARC Webサイト)

概日時計の温度補償性は、シアノバクテリアに限ったものではなく、ほかの生物種にも見られる普遍的な性質ながら、生物種が異なると、時計タンパク質の種類も異なってくる。それにも関わらず温度に対して頑健な性質が現れるという事実は、時計タンパク質が一般的なタンパク質とは異なる何らかの特徴を共有していることが考えられると研究チームでは説明する。そのため、今後は観察対象をほかの生物種の時計タンパク質にも広げることで、概日時計の温度補償性を裏打ちしている自律的な制御機構の秘密に迫ることができるものとしている。