宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、惑星形成において、原始惑星系円盤の中で塵が集まってペブル(小石)程度のサイズになると、円盤内のガスの抵抗を受けて速度が落ちて中心星に落下してしまうという「固体落下問題」や、太陽系の岩石惑星はなぜ地球が最も大きいのかといった課題を、スノーラインの存在が解決できる可能性があるという説を発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)太陽系科学研究系の兵頭龍樹 国際トップヤングフェローらの研究チームによるもの。詳細は、天文学と天体物理学を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された。
分子雲の最も濃い部分が周囲のガスや固体粒子(塵)を集めてさらに重力を強め、最終的には恒星の誕生に至る。誕生して間もない恒星の周囲には、その恒星に落下しなかった分子雲の残りが土星の環のように取り巻き、原始惑星系円盤(ガス円盤)となる。このガス円盤の中で最初は小さな固体粒子が少しずつくっついて大きくなり、最終的には惑星にまで成長すると考えられている。
しかし、ガス円盤を再現する数値シミュレーションを行うと、固体粒子がペブル程度のサイズになると、固体粒子よりもゆっくりと回っているガスの抵抗を受け(ガスが向かい風になる)、ペブルは急速に失速して中心星へと落下してしまう。
この結果は、何かの要素が足りていないことから、現在の知見では固体粒子はペブル以上の大きさになれず、惑星も生まれないという現実との矛盾が生じてしまっていると考えられている。この固体落下問題を解決するため、さまざまな説が唱えられているが、今のところ決定打は登場していない。
さらに別の課題もある。ガス円盤中に広くまんべんなく存在する塵が、その場で集まって惑星まで成長した場合、地球に隣接する火星は、地球くらいの大きさになるべきである。同様に、水星はもっと大きいものであるべきだし、小惑星帯の場所には、小惑星ではなく、惑星があってもおかしくない。
そこで今回の研究では、数値シミュレーションを用いて「ガス円盤中のペブル落下過程におけるスノーラインの影響」を詳細に調べることにしたとする。スノーラインとは、ガス円盤の中で、中心星から遠ざかることで温度が下がり、水が氷として存在できるようになる境界線のことをいう。
ガス円盤のスノーラインの外側で、岩石と水氷成分などがくっついて成長したペブルは、ガスの抵抗を受けて徐々に中心星へと落下していく。そしてスノーラインに達すると、そこで氷成分が昇華で失われ、水蒸気がそこで発生する。岩石成分は昇華しないので固体として残るが、水氷の消失によって質量・サイズともに小さくなる。小さくなるとガスによる抵抗が効きにくくなり、中心星への落下速度が突然ゆっくりとなる。その結果、スノーラインのすぐ内側では岩石粒の“交通渋滞”が発生することとなる(岩石粒が濃密になる)。
一方、水蒸気の一部はスノーラインの外側に拡散し、再び氷へと凝縮が起こる。そして、次々と落下してくるペブルの存在に相まって、スノーラインのすぐ外側で水氷が局所的に溜まる。スノーラインの内側では、水氷の交通渋滞が発生することとなるという(水氷が濃密になる)。