東京大学(東大)と科学技術振興機構(JST)は4月6日、一般的な4分岐構造を3分岐構造に簡素化した「3分岐ゲル」を開発したところ、最大30倍以上伸ばしても破断しない延伸性と、繰り返しの負荷を受けても常に一定の強靭性を示す強いロバスト性を持つことを発見したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻の酒井崇匡教授、同・藤藪岳志大学院生、同・作道直幸特任講師、東大 物性研究所 附属中性子科学研究施設の眞弓皓一准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する米科学誌「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
腱や靭帯などの軟部組織は修復能に乏しいため、損傷や加齢による劣化などに際し、代替できるバイオマテリアルを用いた人工腱・靭帯の研究が進められており、その素材として、三次元の網目状分子が水を保持した物質で、生体親和性が高いことなどの理由から「ゲル」が期待されているという。
しかし、現状のゲルは最初の1回目の変形に対しては高い強靭性を発揮するものの、繰り返し負荷を加えると強度が減少していってしまうという問題を抱えており、繰り返し負荷を何度加えても常に一定の強靭性を示すロバスト強靭性を発揮するゲルの開発が求められていた。
そうした背景を踏まえ、研究チームは今回、ゲルの網目の分岐数に着目した研究を進めたという。具体的には、ゲルは高分子の紐と紐が4分岐で結びついて格子構造を形成しているが、そのうちの1本を取り除いた3分岐網目構造を持つ「3分岐ゲル」を作り出し、4分岐網目構造を持つ「4分岐ゲル」と比較。その結果、高い強靭性と何度も繰り返し負荷を加えても常に一定の強靭性を示すロバスト強靭性を確認したという。
強靭性調査のために、4分岐ゲルとの延伸性の比較が行われたところ、3分岐ゲルは最大で30倍以上の延伸が可能であることが判明。あまりにも延伸性があり過ぎたため、測定装置の限界まで伸ばしても破断させられなかったことから、正確には30倍以上のどこまで延伸できるのかは測定できなかったという。
この結果を踏まえ、あえて伸びない3分岐ゲルを設計・作製し、延伸可能な理論限界との比較として、3分岐ゲルと4分岐ゲル、それぞれの分岐点を一定の割合で有する中間的な分岐数を持つゲルを、分岐点の割合を変えて複数作製して比較したところ、3分岐の割合が増えるにつれて、延伸性が向上することを確認。特に、3分岐ゲルは理論限界の90%という高い延伸性が示されたとする。また、この3分岐ゲルの高い強靭性のメカニズムの解明に向け、詳細な観察が行われたところ、強く引き伸ばされた高分子の紐がお互いに寄り合ってナノスケールの微結晶を形成する現象である「伸張誘起結晶化」に由来することが判明したとする。
一般的に、ゲルの破壊は、網目の弱いところに力が集中して小さなクラックが生じ、そのクラックが伝播することで起こるが、伸張誘起結晶化が生じる場合は、力が集中して強く伸ばされた部位が結晶化によって硬化し、オンデマンドでの補強効果が生じることからクラックの発生が抑制されるという。ゲルの変形の際に、3分岐構造の方が4分岐構造と比較して高分子が配向しやすいことが、効率的な伸張誘起結晶化につながったと予想されると研究チームでは説明している。
今回の研究成果について研究チームでは、繰り返し大きな負荷が加わっても高い強靭性が求められる人工腱・靭帯などへ適用可能な新規ゲル材料の開発につながることが期待されるとしているほか、ゴムなどのほかの高分子材料においても、分岐構造を3分岐にすることで強靭化できる可能性が示唆されたとしており、このような簡便な方法で高分子材料を強靭化することができれば、高分子材料の材料寿命の延伸や添加剤の削減など、環境負荷の低減につながる可能性があるとしている。