名古屋大学(名大)は3月30日、炭素原子60個で構成されるサッカーボール分子こと「フラーレンC60」を電極基板上に狙い通りに整列させることに成功したと発表した。

同成果は、名大大学院 理学研究科の田中健太郎教授、同・河野慎一郎講師、同・大学院 工学研究科の尾上順教授、同・中谷真人准教授、同・大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所の柳井毅教授、同・齋藤雅明助教らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する主力学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

化学反応などにより、C60の一つ一つに情報を持たせることができれば、同分子を素子とした、完全に新規の単分子メモリや分子デバイスを創出することが可能とされている。その実現のためには、それぞれのC60にどのような情報を持たせたかがわかるように、電極基板の上にC60を狙い通りに整列させる必要がある。

その実現のためには、解決すべき課題が複数あり、大きなものとしては例えば、電極基板上でC60をナノオーダーで思い通りに整列させる手法を開発する必要があるほか、高温環境下や空気中・真空中などさまざまな環境においても、C60が動き回らずに整列した構造を保てるようにする必要があること、また電極基板とC60の間で電子のやりとりができることなども挙げられるとする。

今回の研究では、研究チームが独自に合成した有機分子の「大環状分子」でできた“分子の落とし穴”を、電極基板上に規則正しく並べ、C60が1つずつはまり込むようにすることで、これら3つの課題解決を目指したとする。

実際には、大環状分子を電極基板上で自己集合させて分子シートを形成させることで、規則正しく並んだ分子の落とし穴を形成。あらかじめ大環状分子の分子設計に組み込まれていた分子間相に働く「CH-π相互作用」を活用し、分子の落とし穴にC60を補足させることで、C60は大環状分子の配列上できれいに4nmずつの間隔で整列することが確認されたという。また、溶媒や熱による意図しないC60の拡散を防ぐ必要があるため、200℃まで加熱し、どのような状況になるかが調べられたところ、その状態でも整列構造が維持されることが判明したとするほか、超高真空下でも、空気中でも安定に扱うことができることも確かめられたとする。

さらに、STMでの観察が可能であったことから、下地の電極基板とC60の間で電子をやりとりできることが示され、1分子ごとの選択的な反応へ結びつけられることも示されたとする。

研究チームでは今回の結果を踏まえ、今回開発された技術について、分子メモリや分子センサ、界面におけるナノ触媒などへの応用展開が期待できるとしているほか、多数の分子を扱いながらも、ひとまとめに扱うのではなく個々の分子を扱うことが可能となったことから、個々の分子を扱う新しい化学の素地となることも考えられるともしている。

  • 自己集合による「分子の落とし穴」の作製とフラーレンの整列化

    自己集合による「分子の落とし穴」の作製とC60分子の整列化 (出所:名大プレスリリースPDF)