電力中央研究所(電中研)は3月25日、酸化物系全固体ナトリウム電池を、従来のおよそ750~900℃よりも低温の約600℃で作製する技術を開発したことを発表した。
同成果は、電中研 エネルギートランスフォーメーション研究本部の沓澤大主任研究員、同・小林剛主任研究員、同・小宮世紀上席研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
小型軽量化によるエネルギー密度の向上、液漏れの危険性を配することによる安全性の向上などを実現するため、バッテリーの電解液を固体電解質に置き換えた全固体電池の開発が進められている。
電解質や正負極の活物質として固体酸化物を用いた酸化物系全固体電池が、大気との反応による有毒ガス発生の心配がないことや高温での安定動作から、次世代の電力貯蔵用蓄電池として期待されている。
酸化物系全固体電池の実用化を目指す上での課題の1つが、酸化物同士を密着させるためには1000℃以上の高温焼結プロセスが必要とされるが、そうした高温プロセスは、意図しない反応による電池性能の低下や製造コストの増大などの原因となってしまうという。
そうした課題を解決に向け、全固体電池の低温作製手法の開発に取り組んでいる研究チームは今回、優れたNaイオン伝導率を示す「NASICON」型酸化物である「Na3.1Zr1.95Mg0.05(SiO4)2(PO4)」固体電解質層を、同じくNASICON型酸化物である「Na3V2(PO4)3」活物質から成る電極層で挟んだ対称型の酸化物系全固体ナトリウム電池を作製。低温で融解する「Na2B4O7・10H2O」を焼結助剤としてあらかじめ固体電解質層に混合することで、600℃という従来よりも低温での酸化物全固体電池の作製を実現したという。
また、作製された電池の断面を観察したところ、低温作製にもかかわらず、電解質層は隙間が少なく焼き締まっており、電極層は電解質層と密に接合している様子が観測されたとする。
さらに作製されたナトリウム全固体電池の充放電性能を調べたところ、初回放電において78mAh/gの放電容量(理論容量の約66%の容量)が得られたほか、99サイクル目においても放電容量はおおよそ同じ値を維持しており、放電容量を充電容量で割った値であるクーロン効率もまたほぼ100%を維持していることが確認されたとのことで、この結果は、これまでに報告されている酸化物系全固体ナトリウム電池と比べても劣化量が小さく、今回の研究の低温作製手法が電池特性にも良好な結果を与えている可能性が示されているという。
なお、今回の研究で得られた知見は、酸化物系全固体ナトリウム電池という特定のデバイスの作製手法の提案に留まらず、酸化物という本質的に硬い材料の汎用的な低温焼結技術の開発に活用されることも期待されると研究チームでは説明している。