AR(Augmented Reality:拡張現実)は、依然としてモバイル業界において急成長している分野です。大手調査会社の MarketsandMarkets は、世界のモバイルAR市場が2025年までに295億ドル、CAGR(年平均成長率)31.1%で伸びると予測しています。また、ミレニアル世代(1980年から1995年生まれ)とZ世代(1996年から2015年生まれ)を中心に、ARの利用が今後も拡大を続けるとの調査結果も出ています。

ARは今後大きく成長することが予想される一方で、ARの潜在能力の多くは未開拓のままなので、イノベーションの好機にあふれた分野だと言えます。本稿では、ARについて改めて解説するとともに、世界でのARの活用方法についてご紹介します。

たくさんあるリアリティ(現実)の種類

ARはXR(Extended Reality:エクスステンデッド・リアリティ)とも呼ばれることがあります。XRとは、ARやMR(Mixed Reality:複合現実)、VR(Virtual Reality:仮想現実)の総称であり、世界共通の用語です。本稿ではXRではなくARの表現を使います。

Appleは2017年に、自社初の拡張現実プラットフォームである「ARKit」を発表しました。2018年にはGoogleが、拡張現実プラットフォームとして「ARCore」を発表しました。それ以降、両社のAR開発キットは共に成長を続けており、新しい機能が追加されています。

例えば、Appleの最新リリースである「ARKit 5」では、ロケーションアンカーが追加され、モーショントラッキングや顔認証機能などが改善されています。Googleの「ARCore」では、ストリートビュー用に公開された写真をGoogleマップで使用でき、専用の画像キャプチャーデバイスで撮影した画像を補強するなどの機能が追加されています。

特に高い成長の可能性を持つ「WebAR」

AR開発をさらに普及、浸透させる可能性のある技術として、あらゆるデバイスのWebブラウザを通じてAR体験を提供できる「WebAR」があります。WebARの主な利点は、ユーザーがAR専用のアプリをダウンロードする必要がないことです。一方で、懸念点としては、メモリやブラウザのパフォーマンスに左右され、専用のARアプリが提供できるレベルを体験ができない可能性があることが挙げられます。

ともあれ、ARtillery Intelligence社の調査によると、WebARは大きな可能性を秘めており、ARの中でも最も高い成長の可能性を持っているはずです。

ARはゲームの枠を超えていく

今では、誰もがバーチャルな生き物を捕まえたり、バーチャルなものを倒したりすることに夢中になっています。「Pokemon Go」や「Angry Birds AR: Isle of Pigs」などのモバイルゲームがその一例です。

ARが活用できるのはゲーム業界だけではありません。ゲームの枠を超えて、さまざまな業界で活用が始まっています。ARはこれまでに、Mコマース(モバイルコマース)のツールとして実績があります。また、近年ではEコマース(電子商取引)やオンラインショッピングが流行していますが、消費者が不安なくオンラインで家具や衣服を購入できるように、事業者はARを活用するようになりました。家具やインテリアを販売する「Wayfair」や「IKEA」のアプリ、「Wanna Kicks」のスニーカー試着アプリなどがその例です。

ARへの投資は確実に回収できると言っていいでしょう。オンライン住宅リフォーム・デザインプラットフォームの「Houzz」は、2017年5月にiPhoneとiPad向けアプリ内で「View in My Room3D」の初期バージョンを開始しました。その2年後には、200万人以上がHouzzアプリで商品を購入する際にARを使用したと報告されています。さらに、ユーザーはAR機能が追加される前と比べると11倍の割合で商品を購入し、2.7倍の時間をアプリ内で過ごしたという結果も判明しています。

ARの可能性は無限大

ARは携帯電話やタブレットなどのモバイル機器だけではなく、スマートウォッチをはじめとする着用可能な機器も含めて、商業的および産業的な用途は無数にあります。以下にいくつかの例をご紹介します。

「Visionsafe」は、飛行機のコックピットが煙で充満しても、酸素を供給しながらAR技術を使ってコックピットを再現できるマスクを作成し、不測の事態が発生してもパイロットの安全な飛行を補助しています。

「Mission to Mars」は、実際の火星探査機の探検や打ち上げなどを基にして、さまざまなAR体験を可能にしたエンターテインメント型の教育機会を提供しています。

・モバイルアプリである「Mondly」は、ARを利用して新しい言語の取得を支援します。

「Accuvein」は、AR技術を使って医療従事者が苦労せずに静脈を見つけることを可能にします。

・GigXRは最近、世界的な教育出版社であるElsevierと提携し、11の器官系と4500以上の身体構造を部位別に見ることができるインタラクティブな解剖学訓練(複数の器官を同時に表示し、それらを自由に組み合わせて重ね合わせる機能を含む)を提供するMRアプリ 「HoloHuman」を作りました。

「AR Runner」はフィットネス活動をゲーム化し、シェイプアップをより楽しいものにしています。

・Hyundaiの「バーチャル・ガイド・アプリケーション」は、ユーザーに双方向型の自動車の取扱説明書を提供します。BMWの「Virtual Viewer」は、ARを活用して顧客が特定の自動車モデルを自宅前に停車していることを想像できるようにしています。より広い用途では、Tradiebotは「WorxAR」に取り組んでいます。「WorxAR」は、デベロッパーがARを通じて文脈に応じた情報を提供するためのプラットフォームであり、潜在的には無限の用途がありながら、車の修理やメンテナンスなどに特に重点を置いています。

ARは現実世界でも人に出会いの場を提供する

ARが現実の世界で人と人を結びつけると考えるのは、違和感がある人も多いのではないでしょうか。しかしながら、人気ゲームである「Pokemon Go」のプレイヤーは現実の世界のグループイベントに参加して交流しています。また、最近では、Octiのような先進的なデベロッパーが、完全にARベースのソーシャルメディア・プラットフォームを構築しようとしています。

「Pokemon Go」がARで大成功を収めた背景には、資金力のある大企業の協力や、ポケモンの知名度や人気がもともとあったという、好条件が多くそろっていたと言ってよいでしょう。とはいえ、ARが提供する現実世界との接点が人気を後押ししていることは確かです。例えば、ゲーム内でのレベルが5になるとプレイヤーはチームに参加できるようになり、多くのキャラクターを見つけるために現実世界を歩かなければならなくなります。また、現実世界で開催されるイベントには、いまだに何千人ものプレイヤーが登録しています。

今がARのイノベーションに最適な時期

モバイルアプリやモバイルARアプリの開発コストを予測するのは困難です。また一般的にARアプリは追加開発やGoogleのAPIのライセンスなど、地理や地図サービスなどとの連携が必要です。開発コストの例として、Rovioの元祖「Angry Birds」の開発費用は約14万米ドル、ARを搭載した「Pokemon go」の開発費用は約50万から60万米ドルと推定されています。

どちらもクリエイターに大きな利益をもたらし、ARでなくても成功できることを証明しています。そうは言っても、AR市場はイノベーションの機が熟しておらず、誰もが次の 「大当たり」を開発でき、ビジネスの拡大を狙うチャンスが転がっているのです。