2018年は、政府がモデル就業規則の中で「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を定めるなど、いわば「副業元年」とも呼ばれる年となった。以来、副業人材を受け入れる企業や、副業人材として活躍する人も増えている。
従来の副業と言えば、本業の片手間に従事する内職のような仕事や、プログラマーやデザイナーが特定の業務のみを請け負うようなイメージが強いだろう。しかし、現在は自身のキャリア形成を目的として副業を始める人が増えているとのことだ。
そこで、現職と両立しながら自身のキャリア成長を目指す社会人を支援する副業マッチングサービス「lotsful(ロッツフル)」を手掛ける、パーソルイノベーションの田中みどり氏に、副業人材を社内で有効に活用するための方法と、その最新の事例を伺った。
副業を解禁する企業のメリットとは
田中氏によると、副業を始める動機として収入の補填を目的とする人が最も多いのだが、それと同程度にキャリアアップを目的として副業を始める人がいるのだという。特に2020年から続くコロナ禍において、収入の減少や会社への不安を背景として副業を検討する人が増えているようだ。
また、働き方改革やコロナ禍によってテレワークの導入が急速に進み、日々の可処分時間が増えたことも追い風となっている。
世間的にも副業が徐々に認められはじめ、生活者の働き方が自由になる中で、企業は「優秀な人材に選ばれるために」さまざまな選択肢を社員に与える必要性が高まっている。同氏によると、副業の解禁もそのための一つの方法とのことだ。
社員一人一人の成長を自社内の研修やジョブローテーションだけで担保することが難しい現代において、副業をきっかけとして自社では得られない経験やノウハウを学べるため、人材育成の観点からも副業を許容し始める企業が多いという。条件付きでの副業容認も含めると、約6割の企業が社員の副業を認めている。
一方で、情報の取り扱いには注意する必要がある。自社が持っている情報やノウハウと、個人に属するスキルやノウハウをそれぞれ適切に管理しなければ、情報漏えいをはじめとするトラブルを招きかねない。企業ごとにあらかじめ制度やルールを定めておくべきだとしている。
副業人材に振り分けるべき業務とは
企業が副業を解禁するきっかけは大きく2つに分けられる。1つは経営層からトップダウン型に副業を解禁するケース。もう1つは副業を始めたい社員が増えたために制度の整備を始めるようなボトムアップ型のケースだ。
副業を解禁する企業の増加に伴って、副業人材への業務の振り分けの際につまづきやすい点を田中氏に聞いてみた。
従来の副業人材活用のように、業務の一部を切り出して社外のエンジニアやデザイナーへ発注する場合には各社のノウハウが蓄積され始めているが、一方で、事業開発やマーケティングなど業務で副業人材の活用を検討する場合には注意が必要だという。
特に、依頼する業務内容を適切に明文化できなかったために、「優秀だから採用してみたけれど、有効にマネジメントできなかった」といった例が多いとのことだ。副業人材に業務を依頼する際に、現状の課題や業務のゴール、成果として求めるものをあらかじめすり合わせておくのが良いとのことだ。
田中氏は副業人材を活用する際のポイントとして「緊急度は高くないが重要度が高い業務」を勧めている。即時性の高い判断が必要な業務では、外部の人材を有効に活用するのは難しいだろう。そのため、中長期的なゴールに向かってじゅうぶんに実力を発揮してもらえるような環境が重要となる。
副業人材活用の最前線
比較的早期に副業人材の受け入れを解禁した企業では、さらに一歩進んだ人材活用に挑戦しているようだ。その一例がブリヂストンである。同社は2022年1月より、探索的な新規事業と位置付けている「ソフトロボティクス」に関わる副業人材の募集を開始した。
2021年に事業化検討段階としてスタートしたソフトロボティクス事業は、2022年に本格的な事業化への移行を開始した。同社がコアとするゴム素材の知見と、他業種で専門知識のノウハウを持つ副業人材の知見を掛け合わせることで、新規事業の拡大を図る。
ブリヂストンのように、大手企業が新規事業の立ち上げ段階で副業人材を活用する例が増えているようだ。事業開発のノウハウや経験を求める声が高まっているという。
特に近年は、既存事業とデジタルテクノロジーを掛け合わせた事業開発の潮流が強まっている。そこで、デジタルに関する技術的な知見を持ちながらビジネスも理解できるような副業人材に対する要望が強くなっているとのことだ。