業務への影響の有無にかかわらず、普段どれだけ「勉強」しているだろうか。資格の取得に向けた勉強や自己研鑽のための勉強など、その種類はさまざまあるが、実のところ、日本人は諸外国の人に比べて圧倒的に勉強時間が短いのだという。

こうした状況の中で、「日本人の勉強時間がなぜ短いのか」「企業が組織開発としてどのように社員の『学び』と向き合えばよいのか」について、パーソルイノベーションで「学びのコーチ」事業に携わる柿内秀賢氏に聞いてみた。

  • パーソルイノベーション ラーニング領域 ラーニング事業開発室 室長 柿内秀賢氏

圧倒的に勉強しない日本人

パーソル総研がAPAC(アジア太平洋)地域の各国を対象に実施した調査では、「自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習や自己啓発活動」が0個である、つまり、勤務先以外での勉強をしていない人は、日本人では約46.3%にも上る。

勉強をしていない人の割合が比較的高いオーストラリア(21.5%)やニュージーランド(22.1%)と比較しても、これを上回る結果となった。また、同じアジアである中国(6.3%)や韓国(12.35)と比べても大きな差がある。

  • 日本では業務外の勉強をしていない人が他国よりも高いようだ 資料:パーソル総研

その理由について、柿内氏は「雇用に関わるルールの影響が大きいのでは」と見ている。日本のように解雇に対するペナルティが強く、社員が法律によって守られる国では、企業への依存が強くなる傾向にある。また、日本ではスキルではなく学歴などによって評価される場面が多く、新卒採用後の配属を企業が決める例も多い。

さらに、転職市場において、ジョブディスクリプションのように職務内容や求められる職能を詳細に記載した資料を用意する企業は少ないだろう。このような環境において、われわれは何を学んでどのような職に就きたいのかを考える機会は減ってしまう。その結果、勉強の必要性を感じづらく、業務外では勉強をしない人が多くなってしまうとのことだ。

業務外の「学び」、継続できない理由とは?

同氏が法人向け研修サービスである「学びのコーチ」に携わる中で、個人の学習がつまずくポイントが見えてきたという。同サービスは1から3カ月間、オンラインで専任のコーチが受講者一人一人を支援することで、継続的に組織全体のリスキリングを支援する。

同プログラムにおいて学習の初期段階でつまずいてしまう人、つまり三日坊主になってしまう人は約5割だ。そのうちの一部はなんとか学習を再開し、結果的に3カ月間のプログラムを完遂できるのは全体の約8割だ。2割の人は途中で学習をやめてしまう。「学習しなければと思っていても、日々の惰性の中で引き戻されてしまうのが課題」と同氏は述べた。継続的に学習するためのメンタルモデルが出来上がっていない点が要因だと考えられる。

3カ月間のリスキリングプログラムを最後まで完遂した人は、共通して「次はセキュリティの勉強をしたい」「次は別のプログラミング言語を学びたい」など、具体的な次の行動を口にするようになるという。学習を継続すること、そして、チャレンジすることに自信が付くようだ。反面、学習を始めなかった人や最後まで継続できなかった人は、具体的な未来のキャリアをイメージするのは難しいという。

企業はどのように社員の「学び」を支援すべきか?

近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)やリスキリングなどの文脈で、「デジタル人材」の育成について論じられる場面が増えた。しかし、組織開発の観点から社員の学習を考えたときの課題は非常に繊細だ。柿内氏によると「労務の問題も大きな影響を与えている」とのことだ。

企業、あるいは組織によって、学習も業務の一環として残業に含める場合と、あくまでも学習は自己研鑽だとして業務外扱いとする場合がある。中には、「学習はプライベートでやりなさい」としながらも、社員の自律性が高く自ら学習に取り組む人が多い組織もある一方で、「学習の時間も残業に含めて良い」としているものの従業員の自律性がなくて学習がなかなか進まない組織も存在する。つまり、学習を業務に含めるか否かが社員の学習態度に直結するわけではないようだ。

「学習を業務の一環とするかどうか、どちらが良い悪いと断じるものではなく、それぞれに一長一短があると思う」と同氏。過去の採用時にどれだけ自主性を求めていたのかや、「学習」について企業が従業員とどのように向き合ってきたのかなど、企業風土による影響も大きい。

これから組織開発として社員の教育を始めたいのであれば、こうした企業風土や既存の組織の慣習なども考えながら社員の学習を支援すべきとのことだ。

センシティブな内容だからといって、社員の学習とどのように向き合うのかという問題を避けてしまうと、学習機会を提供するだけにとどまってしまう。社員が学び続ける企業文化を作り上げるためには、労務の問題や業務との切り分けなど、考えなければいけない課題がたくさんあるが、近年はこうした諸問題を切り崩しながらも「学び続ける組織」のための文化醸成に取り組んでいる企業が増えているのだという。