情報通信研究機構(NICT)、神戸大学、エルテスは3月10日、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」などを利用した不正送金検知の実証実験の結果を公表した。

「DeepProtect」は、各組織から中央サーバにデータそのものを送ることなく、学習中のパラメータのみを暗号化して送信する。パラメータは複数のデータを集計した統計情報として処理するため個人を識別できない状態となり、その上で暗号化を施すため、データの外部への漏えいが防げるという。

今回の実証の結果、千葉銀行、三菱UFJ銀行、中国銀行、三井住友信託銀行、伊予銀行らと連携し、不正送金の検知精度80%以上を達成するとともに、一銀行では検知できなかった不正送金の被害に遭った取引の検知や、不正送金に悪用された口座の早期検知を確認できたとのことだ。

実証実験では、5行が各行の検知目的に応じて、被害取引の検知を目的とする「被害検知グループ」と、不正口座の検知を目的とする「加害検知グループ」とに分かれ、それぞれ実証に取り組んだ。

「被害検知グループ」には2行が参加し、「単独組織のデータのみを用いた通常の機械学習モデル(個別学習モデル)による検知精度」と「2行のデータを用いたDeepProtectモデル(連合学習モデル)による検知精度」を比較した。その結果、連合学習モデルにより検知精度が向上することを確認したという。また、個別学習モデルでは検知できなかった不正取引が検知された例も確認できたとのことだ。

  • 被害取引の検知のイメージ

  • 被害検知の実証の結果

「加害検知グループ」には4行が参加した。「通常取引に使われていた口座が、あるタイミングから犯罪に悪用され、取引停止・凍結されたもの」を不正口座と定義し、これを検知したという。個別学習モデルと、連合学習モデルと個別学習モデルを組み合わせたハイブリッドモデルの2モデルを比較した。

その結果、個別学習モデルよりもハイブリッドモデルで高い性能が確認され、検知率80%以上を達成している。さらに、実データでの不正口座凍結よりも20週から50週程度の早期検知が可能であることも示されている。

  • 不正口座の検知のイメージ

  • 加害検知の実証の結果

近年はマネーロンダリングや不正送金、振り込め詐欺などの金融犯罪が複雑かつ巧妙となっており、各金融機関は早急な対策が求められている。警察庁の発表によると、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺による全国の被害金額は、2021年に278億円を超えているという。

AI(Artificial Intelligence:人工知能)などを用いた不正取引の自動検知システムの導入が検討されているものの、単独の金融機関では十分な量の学習データを用意できない点が課題となっている。また、個人情報を含む金融取引データを金融機関の外に持ち出すことができないため、複数の金融機関で協力して学習することもできずシステムの普及は進んでいない。

こうした背景を受けてNICT、神戸大学、およびエルテスは、データを外部に開示することなく機密性を保ちながら機械学習が可能な技術「DeepProtect」を活用して、複数の金融機関と連携して不正送金を自動検知するシステムの実現を目指し、実証実験に至ったとのことだ。