東芝は3月3日から4日まで、オンラインカンファレンス「TOSHIBA OPEN SESSIONS」を開催する。2021年度で2回目となる今回は、DX(デジタルトランスフォーメーション)や量子技術、データ活用基盤などをテーマにした講演やセミナー、オンライン展示が行われている。
カンファレンス初日の基調講演には、3月1日に東芝の代表執行役社長CEOに就任した島田太郎氏が登壇し、「サステナブルな未来を拓く、東芝のデジタル戦略~産業・ビジネスに新たな価値を創出する変革の鍵とは~」と題して、同社のデジタル事業の戦略を発表した。
講演の冒頭で島田氏は、「持続可能な社会の実現のためにはカーボンニュートラルとインフラレジリエンスが重要になる。当社はデジタルデータでそれらを加速させ、社会と産業を進化させる戦略を考えている」と説明した。
そのうえで、東芝のインフラサービスの事業モデルが示された。同社は今後、デジタル技術を活用して、さまざまな分野のインフラでサービス化・リカーリング化を進めるDE(デジタルエボリューション)を進め、DX(デジタルトランスフォーメーション)の領域ではデータビジネス、マッチングビジネス、プラットフォームビジネスへの進出を目指すという。
DXの先には、量子技術を活用して社会に変革をもたらすQX(クォンタムトランスフォーメーション)を見据えており、島田氏は「量子産業の創出に向かって発展を遂げたい」と語った。
DEの領域では、例として、ものづくり現場での技術のデジタル化と老朽設備の自動化が挙げられた。これまで、東芝は製造業向けのITソリューションを提供している。デジタル化の対象スコープ(範囲)と高度化レベルをまとめたロードマップを基に、ものづくり現場のデジタル化や自動化を段階的に進める構想で、手始めに自社の生産拠点のスマート工場化を進めているという。
DXの領域では、サプライチェーンの強靭化の一環として、2022年春以降に資材調達ソリューション「Meister SRM」からCO2排出量算定サービスを提供することが発表された。同サービスで自社CO2の自動算定・レポート化が行え、工場・プラントオーナー、顧客、サプライヤに情報共有もできる。
データ活用の分野では、人事給与管理システム「Generalist」で管理するデータを個人が活用できる形でデータ化する、「個人版Generalist」の構想が明かされた。こちらも2022年春以降に製品として提供を開始する予定だ。
「当社は、本人に関する全てのデータは本人に帰属し、人のためになるデータ社会を築くためには自分のデータを確認できて、自由にコントロール可能であることが重要だと考える。会社の中に閉じていた情報を個人として活用できるようにすることで、パーソナルな課題解決からライフやエンタメサービスなど幅広い分野に活用できるようにしたい」(島田氏)
QXの領域では、量子技術の実用化に向けた取り組みが紹介された。東芝は量子インスパイアード最適化ソリューション「SQBM+」を用いて、ダルマキャピタルと株式市場における高速高頻度取引(High-Frequency Trading:HFT取引)の実証実験を行っている。現在、計算創薬のスタートアップと連携して、同ソリューションを用いて新規創薬開発のプラットフォーム提供する取り組みも進めているという。
東芝は量子分野の産業・ビジネス創出に向けてQ-STAR(量子技術による新産業創出協議会)を設立。量子暗号通信の社会実装に向けては、各国と協力してテストベッド計画を進めている。
その中でもEUとのOpenQKDや、英国との量子セキュアメトロネットワークといったプロジェクトは、従来のようにP2P(ピアツーピア)で通信を行うものと異なり、大都市圏、大都市間で量子暗号通信を行うプロジェクトとなる。
「量子中継器、量子衛星通信などの新技術の登場により、2035年あたりからは量子インターネットが出現するのではないかと考える。量子技術の活用によって新しいビジネスや産業が生まれ、業界の垣根を超えた最適化が行われることになるだろう。今後は量子技術の実用化例を提供していきたい」と島田氏は結んだ。