電気通信大学(電通大)は2月17日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策として広く推奨されている換気は、その方法次第と建物の構造次第ではマイクロ飛沫が逆に気流に乗って移動し、集団感染を引き起こす一因となる可能性があることを発表した。

同成果は、電通大 情報学専攻の石垣陽特任准教授、電通大 iパワードエネルギー・システム研究センターの横川慎二センター長/教授、宮城県 結核予防会の齋藤彰、産業医科大学 産業医実務研修センターの喜多村紘子准教授、電通大 情報学専攻の川内雄登大学院生、東京工業大学 反応性気体力学分野の源勇気助教らの研究チームによるもの。詳細は、研究者にいち早く共有し広く意見を求めることを目的とし、米・イエール大学などが運営する医学分野のプレプリントサービス「medRxiv」で公開された。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)には「接触」、「飛沫」、「エアロゾル」の3つの感染経路があり、感染拡大を防ぐためには、それぞれの経路において複数の対策を講じる必要があると考えられている。その中でエアロゾル感染の予防については、マスクの着用に加え、換気が重要とされている。さらに室内の換気状態については、室内のCO2の濃度を計測・可視化して良好な状態に保つことが、たとえ空気中にマイクロ飛沫が存在したとしても、これらをいち早く排出させる手法として注目されている。

電通大はCOVID-19対策のさまざまな共同実証実験をこれまで行ってきた中で今回は、宮城県内でエアロゾル感染が原因とみられるクラスターが発生したとの連絡を受け、石垣特任准教授を中心とする共同研究チームが現地調査を行ったという。

対象施設は、クラスターの発生した宮城県内の高齢者施設で、調査は2021年8月からスタート。現在も追跡調査を実施中ながら、最初のクラスターはデイルームで発生し、最終的に約60名が感染したという。

現地での実測の結果、このデイルームには大型の換気扇が取り付けられており、換気回数は毎時6回以上、一人当たり換気回数は毎時30立方m以上であることを確認。この換気量はビル管理法の基準に適合しており、厚生労働省のガイドラインが示す「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられるという。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が定める感染患者の隔離施設における換気回数の基準にも適合していることから、デイルームの換気状態は良好であったといえるとする。

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    クラスターの発生した宮城県内の高齢者施設での、画像左の初期感染者が居たと考えられる個室から共用エリアへエアロゾルが流出するのを特殊スモークによって再現実験した際の様子 (出所:電通大プレスリリースPDF)

一方、このデイルームに隣接する個室には、初期感染者と考えられる高齢者が1名入居していたことから、CO2トレーサガス法を用いて気流の調査を実施したところ、デイルームに設置された換気扇によって個室の空気が引き込まれており、個室からデイルームに向かって穏やかな気流が発生していることが確認されたほか、コンピュータによる熱流体シミュレーションから、個室から漏れ出したエアロゾルが1分程でデイルームに到達し、そこに滞在する複数の人に再吸入された可能性があることが判明したという。

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    コンピュータの熱流体シミュレーションによる、高エアロゾル濃度領域の時空間的広がりと局所的な流体速度分布 (出所:電通大プレスリリースPDF)

一般に高齢者施設では入居者の生活動線を支援するため、行き止まりのない回廊を中心として、共用エリア(食堂、風呂、トイレ、デイルームなど)と私的なエリア(個室や相部屋など)が空間的につながっているという。今回の調査の結果は、このような特殊な空間設計の建物においては、換気能力のみならず、風の流れを考慮した感染症対策が求められることを示すものであり、研究チームでは今後、関連ガイドラインの見直しと、既存建物における気流改善の必要性を提言していくとしている。