東京大学(東大)は1月20日、佐渡島近海で行った潜水調査にて、カイメンの中に共生し、体幹部が分岐する特異な体制を持つ新種の環形動物を発見し、「キングギドラシリス(R. kingghidorai)」と命名したことを発表した。
同成果は、東大大学院理学系研究科附属臨海実験所の三浦徹 教授、東大 生物科学専攻の中村真悠子 博士課程2年、東大 大学院理学系研究科の小口晃平 博士課程大学院生(研究当時)、東大大学院理学系研究科附属臨海実験所の幸塚久典 技術専門職員、新潟大学の大森紹仁 助教、琉球大学の伊勢優史 博士研究員、名古屋大学の自見直人 助教、ドイツ・ゲッティンゲン大学のAguado教授らで構成される国際研究チームによるもの。詳細は「Organisms Diversity & Evolution」に掲載された。
左右相称動物は、1つの頭尾軸に対して左右相称の体制を有しており、通常の発生過程で頭尾軸が分岐することは稀であるものの、環形動物のシリス科には、体軸が分岐するものが知られていた。
顕著なのがカラクサシリスSyllis ramosaで、19世紀終盤ごろにアジアの海域から報告され、神奈川県の三崎においても深海性カイメンの内部から報告されている。また、近年、オーストラリア北部のダーウィンに近い浅海域から、体軸が分岐するシリスであるRamisyllis multicaudataが報告されており、この種は宿主のカイメンの種や生息域、形態などがカラクサシリスとは異なり、複数の尾部から遊泳繁殖個体(ストロン)が遊離して繁殖を行うなどの特異な生態を示すことが分かっている。
今回、研究チームは佐渡島南部の宿根木で潜水調査を行い、環形動物が内部に棲息しているカイメンを採集。内部に共生する環形動物について、生時の観察、組織学的観察、免疫染色を行ったほか、DNAを抽出し、いくつかの遺伝子配列を決定し分子系統解析を行うとともに、ミトコンドリアの全ゲノム配列の決定を行った結果、オーストラリア産のR. multicaudataと近縁であるが、別種であることが強く示唆されたため「キングギドラシリス(R. kingghidorai)」として新種記載したという。
キングギドラシリスの尾部に開口した肛門に繋がる消化管内には多数の繊毛が生えており、尾部からの海水の流入を促すことが示唆されたほか、著しく分岐する体制は、多数の尾部から繁殖個体を放出できるという繁殖上のメリットがあるとともに、尾部から海水を取り込むことで栄養吸収効率を上げる役割がある可能性も示されたという。
体軸が分岐するパターンを持つ動物は、発生学的にも興味深い研究対象であるが体軸が分岐するシリスはこれまで2種のみが報告されるにとどまっており、今回のキングギドラシリスの発見は、今後、動物の示す多様な形態や生態を明らかにする上で重要であると研究チームでは説明しており、その奇異な形態の裏に秘められた生態や生理機能を解き明かすことで、これまでの生物学の常識が覆される可能性が高いとしている。