名古屋市立大学(名市大)は1月19日、ビフィズス菌「MCC1274」をアルツハイマー病モデルマウスに摂取させたところ、同モデルマウスで見られる記憶障害が予防されることを明らかにしたと発表した。
また、そのメカニズムとしては、ビフィズス菌が、アルツハイマー病の主要因物質である「アミロイドβ」(Aβ)の産生や、神経細胞への沈着を低下させ、海馬での「ミクログリア」の活性化を抑制し、その結果として、「炎症性サイトカイン」の産生を低下させることで記憶障害を予防することが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、名市大大学院 医学研究科 神経生化学分野の道川誠教授、同・鄭且均准教授のほか、森永乳業基礎研究所など、国内外の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、アルツハイマー病に関連するすべての分野を扱う学際的な学術誌「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載された。
近年の研究から、アルツハイマー病は20年以上かけて脳内にゆっくりとAβが凝集した老人斑が脳内に沈着し、その後にタウタンパク質の凝集した神経原線維変化が神経細胞内に形成されるに伴って認知機能障害が引き起こされると考えられるようになってきた。
このとき、脳内では神経細胞やシナプスの減少に加えて、グリア細胞の活性化、炎症などが見られ、これらが相まって認知機能障害が引き起こされていると推測されている。
そのため、アルツハイマー病発症前の長い期間において、Aβの産生ならびにアミロイド沈着を抑制することで、アミロイド沈着によって引き起こされる炎症を抑制できる因子を明らかにできれば、有効な予防法となる可能性があるとされている。そして、軽度の認知障害のある人を対象とした臨床試験において、認知機能の改善作用が確認されているのが、ビフィズス菌MCC1274だという。そこで研究チームは今回、同ビフィズス菌の作用メカニズムの解明ならびに医薬品用途の可能性を探索するために、アルツハイマー病モデルマウスを用いた研究を行うことにしたという。
具体的には、MCC1274をアルツハイマー病モデルマウスに経口摂取させたところ、脳内のアルツハイマー病病態の発症・進行が抑制され、記憶障害を予防することが確認されたという。
詳細な調査から、海馬でのAβ沈着やAβ産生が有意に低下したことが確認された一方、大脳皮質においてはAβ沈着やAβ産生の低下は見られなかったとする。
また、そのAβレベル低下メカニズムの解明を進めたところ、MCC1274投与群では、Aβ産生を抑制する酵素である「ADAM10(α-secretase)」の発現が増加することが確認され、そのメカニズムとして、MCC1274はタンパク質の「PKC」や「ERK」などを活性化させ、その下流にある転写因子「HIF-1α」およびタンパク質「CREB」の発現を増加させること、ならびに海馬ではミクログリアのマーカーである「Iba1陽性細胞」の数が減少し、それによって炎症性サイトカインの産生が低下され、記憶障害を予防する可能性が示されたという。
研究チームでは、今回の実験はアルツハイマー病モデルマウスを用いたが、軽度の認知障害のある人がMCC1274の摂取で認知機能が改善する作用があることが確認されていることから、その作用メカニズムが明らかにされたことで、アルツハイマー病の発症を予防できる可能性が示されたとしている。そのため今後は、今回明らかにされた予防効果のほかに、アルツハイマー病発症後の治療効果についても検討を進めていきたいとしている。