大阪市立大学は12月24日、既存薬の「リファンピシン」と「レスベラトロール」を併用して経鼻投与することで、リファンピシン単剤を投与したときよりも安全性と認知機能の改善作用が高く、傷んだ神経を修復するというリファンピシン単剤では見られなかった効果があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、大阪市大大学院 医学研究科 認知症病態学の富山貴美研究教授、梅田知宙特任講師らの研究チームによるもの。詳細は、スイスの脳や神経科学などを扱う学術誌「Frontiers in Neuroscience」に掲載された。

近年の研究によれば、認知症患者の脳では発症の20年以上前から異常(神経病理)が現れ始めていることがわかってきており、認知症克服には、神経細胞が死に始める前からの診断と予防が必要であると考えられるようになってきている。

そこで研究チームは今回、「ドラッグ・リポジショニング」(既存薬再開発)により、今すでにある薬で認知症の予防が可能となる新しい組み合わせ・投与法を開発することを試みることにしたという。

すでに研究チームではで、既存医薬品であるリファンピシンが、認知症の原因となる「アミロイドβ」や「タウ」などのタンパク質のオリゴマーを脳から除去し、認知機能を改善することをモデルマウスを用いた動物実験で報告していた。

しかしリファンピシンには肝障害などの副作用があり、認知症予防のために長期間服用するには、副作用を極力抑える必要があった。そこで今回の研究では、リファンピシンとは逆の肝保護作用を持つレスベラトロールをリファンピシンと合わせて服用することで、リファンピシンの副作用を抑えられるのではないかと考察したとする。

具体的には、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症のモデルマウスを用意し、1日当たり0.02mgのリファンピシンと0.02mgのレスベラトロールの合剤を週5日間、計4週間にわたって経鼻投与を実施し、マウスの認知機能と脳の病理の観察が行われた。その結果、1か月間投与後の血中の肝酵素は、リファンピシン+レスベラトロール合剤で、リファンピシン単剤よりも低い、正常と同じ値が示されたほか、リファンピシン単剤よりも高い安全性とオリゴマー除去作用、認知機能改善作用が示されたという。また、脳由来神経栄養因子の発現も高くなっていることも判明したという。

  • リファンピシン+レスベラトロール合剤

    リファンピシン+レスベラトロール合剤の認知機能改善効果。リファンピシン+レスベラトロール合剤はリファンピシン単剤よりも高い効果が示された(相乗効果)。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症いずれのモデルマウスでも効果あり (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

  • リファンピシン+レスベラトロール合剤

    リファンピシン+レスベラトロール合剤のオリゴマー除去効果。リファンピシン+レスベラトロール合剤はAβ、タウ、αシヌクレインすべてのオリゴマーを除去した。老人斑には影響なし。CMCは溶媒。Aβ抗体で赤く染まっているのは老人斑 (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

  • リファンピシン+レスベラトロール合剤

    リファンピシン+レスベラトロール合剤のBDNF発現増強作用。レスベラトロール単剤とリファンピシンレスベラトロール合剤はBDNFの発現を増強した傷んだ神経細胞を修復。リファンピシン単剤にはその効果はなかった。TgはAPPOSKマウス (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

今回の実験で投与された量は、リファンピシンでマウス1匹当たり1日0.02mgで、マウスの体重を20gとすると、1mg/kg/dayとなり、これを体表面積でヒトへの投与量に換算すると、0.081mg/kg/dayとなるという。一般的にリファンピシンは、抗生物質として10mg/kg/dayで処方されることから、それと比べても低い投与量で効果が確認されたことになるという。

なお、この合剤点鼻薬の開発は現在、研究室発のベンチャーであるメディラボRFPにおいて進められているとのことで、今回の成果を踏まえ、メディラボRFPは2021年11月に、JETROの支援を受けて、米マサチューセッツ州に子会社を設立。グローバルな臨床試験に向けた準備に入ったとしている。

  • リファンピシン+レスベラトロール合剤

    リファンピシン+レスベラトロール合剤のヒト用点鼻薬のイメージ (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)