東大阪の町工場のDNAを起点に、今ではシリコンバレーにオフィスを構え、世界中でビジネスを展開しているDG TAKANO。同社の特色の一つが従業員だ。人材不足が深刻化する中、同社の半数は外国人であり、国内の人材も東京大学卒業など、優秀な人材ばかりだ。代表取締役 CEOを務める高野雅彰氏に同社の人材戦略について話を聞いた。

  • DG TAKANO 代表取締役 CEO 高野雅彰氏

節水ノズル「Bubble90」で世界の水不足解消を支援

東大阪で小さな工場を経営する両親の下で生まれた高野氏は大学卒業後、IT企業に就職。在職中に、世界的に水が不足している中で節水が重視されていることに気付き、節水を実現する技術を開発した。「日本にいると水が豊富なので、気づかないかもしれませんが、海外の水不足は深刻です」と、同氏はいう。

高野氏が開発した技術に世界を救う力があることに賛同したGoogle Homeのデザインチームがユニバーサルデザインの蛇口を開発してくれたそうだ。その蛇口には節水ノズル「バブル90」が内蔵されている。同製品は節水率最大95%を誇る。

「われわれは水を作ることはできないが、節水を支援することはできます。水不足はベンチャーの力でも解決できる課題です。Bubble90は世界の社会課題を見据えて開発したものであり、当社はもともと世界をターゲットにしている企業なのです」と、高野氏は話す。

Bubble90は優れた製品として海外のメディアに取り上げられていることから、自然と優秀な海外の人材が集まってきたという。昨今、日本の企業でもダイバーシティ(多様性)を重視する傾向が高まっているが、さまざまな国の人が一緒に働くことで摩擦などはないのだろうか。

高野氏は「日本企業は、自分たちのやり方に外国人を従わせようとします。だから、日本は住みたいランキングの順位は高いのに、働きたいランキングの順位は低いです。しかし、どの国にもカルチャーはあります。DG TAKANOは『地球の会社』です。各国の独自の文化のよいところを尊重しています」と、DG TAKANOでは国という枠自体がないことを強調した。

インド人学生の採用を支援するTech Japan

DG TAKANOでは、自発的に応募してきた人を選考するほか、日本に住む高度外国人材にオファーを出すなどして、外国人を採用してきた。しかし、それだけではリーチできる人材は限りがある。そこで、高野氏が活用したのがTech Japanのサービスだ。

Tech Japanは、インド工科大学(IIT)およびインド経営大学院(IIM)と連携し、日本企業がIITおよびIIMに在籍するハイスキル学生の獲得を支援するデジタルプラットフォーム「Tech Japan Hub」を提供している。日本企業が「Tech Japan Hub」で会社情報やインターン募集情報を入力すると、その内容がすべての提携大学および在籍学生に共有される。登録されている企業に興味関心を持った学生は「Tech Japan Hub」から応募できる。

Tech Japanは「Tech Japan Hub」の本格導入に先駆けて2021年3月から7月に実証実験を行ったのだが、それにDG TAKANOも参加した。その際、IITから500人の応募があったそうだ。Tech Japan 代表取締役の西山直隆氏によると、インド工科大学などのトップスクールでは、独自の採用ルールが導入されており、企業の知名度やオファー金額などが高い企業に対し、優先的に採用面談日程が割り当てられるスキームとなっているという。そのため、日本企業がインドのトップスクールの学生を採用したい場合、GAFAのグローバル大手企業と面談日程を争うことになるが、その競争を勝ち抜くのは難しい。

そうした中、DG TAKANOは早い日程であるDay1の面談日程に参加しており、「学生からの人気が高く、かなり難しい局面を突破できた」(西山氏)とのことだ。面談の結果、5人のインド人の学生が日本でインターンシップを実施し、最終的に1人が入社した。高野氏に採用の決め手を聞いたところ、「どの学生も優秀でしたが、採用した学生はコミュニケーション力が高かったです」と語っていた。

高野氏は、インドの学生の採用について、「インドの大学への接触が難しく、個別で見つけることができる可能性も低かった。Tech Japanはインドの大学にアクセスしやすくして、アピールするチャンスを作ってくれました」と話す。

自分でやりたいことができるからこそ選ばれる

DG TAKANOが一般の日本企業と異なることは先に述べたが、同社の強みはまだある。オランダのロッテルダム大学を卒業して同社で働くアレクサンダー・ナイデノフ(Aleksandar Naydenov) 氏は、入社の理由を次のように説明した。

  • DG TAKANO アレクサンダー・ナイデノフ氏

「求職時、ヨーロッパの別な会社も検討していましたが、DG TAKANOのビジネスはダイナミックであり、スピードが速い点に魅力を感じました。自分がやりたいことをすぐにやることができます」

高野氏は、インドの優秀な学生はこれまで米国でエンジニアリングの職に就くのが普通のキャリアだったが、インドの経済が成長を遂げた今、お金だけじゃなく、自分のやりたいことを成し遂げたいと考えるインドのエンジニアが増えているという。

DG TAKANOは特化した技術を持った工場とアライアンスを結んでいる。同社はデザイン会社という立場で、各工場の技術を組み合わせて、新しい製品を生み出す。

高野氏はいう。「iPhoneを考えてみてください。iPhoneは汎用的なパーツの組み合わせからできており、決して新しいものではありません。われわれはAppleと同様、デザインをします。アライアンスを組んだ日本企業が持っている優秀な技術を活用して、新しい製品を作り出します。金属を削るだけなら、他の工場でもできるでしょう。しかし、DG TAKANOでは自分がつくりたいものをつくることができます」

DG TAKANOでは、他の企業ではできないことに挑戦できるからこそ、世界の優秀な人材が集まってきているというわけだ。さまざまな国の人が働きやすい土壌を整備する一方で、働く人がやりがいをもって仕事ができる環境も提供しているのだ。

また、高野氏は「外国人を採用する上で、その人の人生をサポートできること、どんな未来を見せることができるかということが大事」とも語っていた。人材の獲得競争が起こっている今、このことは、あらゆる企業にとって優秀な人材から選んでもらうために、大切なことなのではないだろうか。