「プラズマ乳酸菌」という言葉をテレビCMなどで耳にしたことがある方も多いのではないだろうか。

“健康な人の免疫機能の維持をサポートする乳酸菌”との説明がされているが、そもそもどういった菌でどのように免疫機能に働きかけるのか。

今回、プラズマ乳酸菌の発見者であり、命名者でもあるキリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部部長兼キリン中央研究所 リサーチフェローで農学博士の藤原大介氏にお話しを伺う機会を頂いた。

  • 藤原氏

    お話を伺った藤原大介氏

免疫力が高いとはどのような状態?

--そもそも“免疫”というのは体にとってどういう役割を果たしているのでしょうか?

藤原氏(以下、敬称略):免疫の一般的な理解はウイルスなどの外部からの侵入者を排除してくれるというものだと思います。これは日常的に我々が免疫という言葉に接するのが、ワクチンだからかもしれません。

実は、免疫は内部の敵からも守ってくれています。例えば、がんの基になる“前がん細胞”は毎日100個くらい普通に生活しているだけでも体内にできているのです。でも、全員ががんを発症してはいませんよね? その前がん細胞を日々体内で除去してくれているのも免疫なのです。

さらに、免疫の非常に重要な役割として体内の組織を修復するというものがあります。内臓などの体組織は日々劣化していきますが、その修復もしてくれているのです。免疫は単に外敵をやっつけるだけではなく、体の内部の異常や劣化のメンテナンスもしてくれているのです。

--では「免疫力が高い(良い)状態」とはどのような状態なのでしょうか?

藤原氏:“免疫力が高い”、というのは科学的には正確な表現ではありません。一方でメディアなどでは一般的にその表現を使っていて、“風邪などをひきにくい状態である”というのがみなさんの認識だと思います。

この免疫力が“高い”“低い”というのは、免疫細胞の状態を指しています。外からウイルスなどが入ってきたときには、まず自然免疫が働きます。自然免疫で働く免疫細胞は体内に侵入した外敵を“食べる”攻撃を行ってウイルスなどの侵入を感知し、下流の免疫系に排除指令を出します。“免疫力が高い”というのはウイルスが入ってきたときに自然免疫の細胞が現場に駆けつけるスピードが早く、強くウイルスに対する攻撃の指令を出すという免疫細胞としての活動量が多い状態をさします。

免疫力が低い状態では、駆けつけるスピードが遅く、ラグタイムが生まれてしまいます。そのラグタイムが大きければ大きいほど、ウイルスに増える時間を与えることになります。免疫細胞がすぐにウイルスを見つけることができれば風邪などの病状が出る前にウイルスを排除してくれるというわけです。

プラズマ乳酸菌の本名は「JCM 5805」

--藤原先生の研究チームが発見した「プラズマ乳酸菌」は“健康な人の免疫の維持をサポートする乳酸菌”ということですが、どのように免疫に働きかけるのでしょうか?

藤原氏:プラズマ乳酸菌は正式名称を「JCM 5805」といいます。 (編集部注:プラズマ乳酸菌はキリンの登録商標)

  • プラズマ乳酸菌

    プラズマ乳酸菌(JCM 5805)(出典:キリン)

免疫細胞には大きく分けて細菌や異常細胞担当の免疫細胞とウイルス担当の免疫細胞がいます。敵の大きさがあまりにも違うので役割分担がされているのです。プラズマ乳酸菌は「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)」というウイルス担当の免疫細胞を活性化させるものです。

先ほど、免疫が高い状態とはどういう状態かということをお伝えしましたが、ウイルスが体内に侵入してきたときの反応が早ければ、発症に必要な量に達する前にウイルスの排除が可能です。この反応を高める、活動量を多くするために活性化させるということです。

免疫細胞の動きは1日のうちでも活動的だったり、休みがちだったりとまちまちです。またストレスによって、免疫細胞の活動は低下します。その免疫細胞の活動量を高く保つというのが重要です。

  • 免疫細胞の活動量を低下させないことが大事だと語る藤原氏

    免疫細胞の活動量を低下させないことが大事だと語る藤原氏

--プラズマ乳酸菌がpDCを活性化させることを発見した経緯を教えてください

藤原氏:キリンの留学制度でUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に行っていた際にpDCの基礎研究を行っていました。その研究中にpDCが免疫機能に関して重要な役割を果たしていることがわかりました。

しかし、基礎研究だけでは実用化が出来ない。pDCを乳酸菌のような安全なもので活性化させることができれば、ワクチンや薬だけではないウイルス感染の防御法に繋がるのではないかと考えて、研究を進め、JCM 5805がpDCを活性化させることを発見しました。実用化ハードルが低い食品として研究を進め、2~3年でキリンの飲料などの食品で実用化することに成功しました。

--プラズマ乳酸菌の命名者は藤原先生なのですね

藤原氏:JCM 5805は理化学研究所の運営する菌株バンク「JCM(Japan Collection of Micro-organisms)」から発見されました。そのままだと覚えにくいということで、社内向けの資料に入れる目的で、pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)からとって名付けました。覚えやすくて結果的には良かったかもしれません。

JCM 5805自体は1900年代初頭のデンマークで見つかったもので、酸乳というヨーグルトに似たものの中から発見されたようですが、生理的な働きについては一切不明な菌株でした。

--藤原先生の免疫研究の今後の展望を教えてください

藤原氏:免疫は体外からのウイルスなどからの防御だけでなく、体内部の劣化に対するメンテナンスという重要な働きも持っています。それを鑑みて、やはり最終的に目指したいのは“アンチエイジング”です。

“100年生きる”というのが当たり前になってしまった時代です。でも薬をいっぱい飲みながら100才まで生きるというよりは、劣化せずに健康で長く生きることができたほうがいいと思っています。

中身もそうですが、外見もできれば若く保ちたいという希望もあると思います。ルックスも体の機能もキープするという観点から“免疫を保つ”ということを研究していきたいですね。