NTTコミュニケーションズ(NTT Com)はコロナ禍において、無駄を省いて生産性を上げるスマートな働き方「スマートワーク」を実践している。従業員がやらなくてもいい「無駄な作業」をコンピュータに代替させ、場所・時間にとらわれない新しい働き方を模索している。

チームスピリットが実施した20代~50代の男女1,032名を対象にしたインターネット調査結果では、78%の人が「無駄だと感じる作業がある」と答えている。「無駄だと感じる作業」は、「社内会議のための資料作成」が38.1%と一番多く、「勤怠登録」(26.0%)や「経費精算」(24.4%)も無駄と思われていることもわかった。

社内外問わずにこうした無駄をなくしていこうと、NTT Comは2019年9月に「スマートワークスタイル推進室」を設立。スマートワークスタイルを実現するソリューションとして、交通費・経費精算サービスや、デジタル社員証、ワークスペースの検索・予約サービスなどが既に展開されている。

そして同社では、従業員が抱える無駄な作業を軽減しようと、これらのソリューションを活用した社内実証実験を2020年1月より実施している。同実証実験ではどのような取り組みを行い、どれくらいの成果が得られたのだろうか。スマートワークスタイル推進室室長の川田英司氏に話を聞いた。

  • NTTコミュニケーション ズプラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部 スマートワークスタイル推進室 室長 川田英司氏

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「交通費精算」という無駄

NTT Comは新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年2月よりテレワークの推進を開始し、全社の約8割がテレワークを継続している。勤務形式をテレワークに移行することは順調だったが、業務の効率化が少し遅れを取っていた。そこで、川田氏は以前から社内に散在している無駄な業務に注目した。

「テレワークは変わりつつある働き方の一端でしかない。今後重要となるのは、企業が率先して無駄を省いて従業員の働き方の自由度を高めることだ」と、川田氏は言い切る。

まず最初に取り掛かったのは「交通費精算」という無駄をなくすこと。交通費精算とは業務で使用した交通費を申請者が申請し、承認者、経理担当者が確認、承認する業務のことだが、移動経路一つ一つの確認や、交通費の立て替え、領収書原本の管理、システム上での登録など、面倒な作業がたくさんある。

「申請はその都度行い、ためないようにしよう」と思っていても日々の業務に追われ、結局、締切ギリギリになって申請する人も多いだろう。同社の社員も交通費精算に毎月約1時間費やし、承認側の上司もそれ以上に時間をかけて確認し「(締切日がある)月末が憂鬱だった」(NTT Com社員)という。

そこで運用を開始したのが、同社が開発した「SmartGo Staple」。SmartGo Stapleは、モバイルSuicaと法人プリペイドカードのStapleカードを組み合わせて利用できる経費精算システムだ。電車に乗るだけで交通費の申請が自動で完了し、StapleカードをモバイルSuicaに登録することで、従業員は建て替えをしなくて済む。

  • NTT Comが開発した「SmartGo Staple」

経理担当者も振り込む手間がなくなり、また、同システムには通勤にかかった費用とそれ以外の交通費とを判別する機能があるので、移動経路の確認作業も軽減された。「交通費の精算に1時間程度かかっていたものが、5~10分程度で済むようになった」(NTT Com 社員)そうだ。

  • アプリにより、従業員の立替払いと申請、経理担当の振込が不要になり、管理者の承認も効率化される

「従来活用していた経費精算ツールでは、移動した経路を交通系ICカードから定期的に読み込んでいた。しかし、データの保存数に上限があり、読み込みを忘れると保存されていなかった部分は手入力しなければならず、余計に時間を使っていた。SmartGo Stapleは読み込みの漏れがなく、そうした無駄がない」(川田氏)

発注・調達プロセスも効率化

次に、川田氏が無駄を減らせると目星を付けた業務は、備品などの発注・調達プロセスだ。先述した法人プリペイドカードStapleを従業員に配布し、AmazonなどのECサイトで商品を購入できるようにした。従業員に会社で定めた調達システム以外の選択肢を与えることが狙いだったという。

川田氏は、「社内で定められた調達システムで購入する場合、社内稟議に2時間、在庫がない場合は納期まで2週間かかることもあった。プリペイドカードを利用することで、発注先を限定しなければ、発注は5分で済み翌日には商品が届く」と説明する。

また、従来のシステムで購入した備品は会社に届くことになっており、受け取りのためにわざわざ出社しなければいけなかったが、新システムでは自宅でも受け取ることが可能になった。

「プライベートでECサイトを使う手順で備品を購入できるようになった。数日で自宅に届くので時間を節約でき、無駄な出社をしなくてもよくなった」(川田氏)

入館証にはちょっとした無駄と重大なリスクがある

川田氏は入退館時のちょっとした無駄にも着目した。「出社時、オフィスの入り口付近でカバンから社員証を取り出す人で集まる」(川田氏)。そういった光景を一度は目にしたことがあるだろう。

2020年10月に実施した実証実験では、首から下げるタイプのIC機能付き社員証カードを廃止し、社員証をデジタル化した。スマートフォンと連動した非接触の入退館を実現するため、同社はデジタル社員証「Smart Me」を開発した。

  • デジタル社員証「Smart Me」。スマートフォンをポケットやバックに入れて端末に手をかざすだけで入退館できる

同システムは車のスマートキーと同じような仕組みで、社員はポケットやバックにスマートフォンを入れて端末に手をかざすだけで入退館できる。紛失時には素早くデータを削除したり、入退館機能を停止したりすることが可能。

また、Smart Meにはブロックチェーン技術を活用した身分証明機能がある。ブロックチェーン上の社員の身分証の情報を書き込むことで、ブロックチェーンの特性(残り続けること)により、改ざんされることはない。身分証本体が改ざんされた場合には検証できる。

従来タイプの社員証を紛失した場合、回収するのが極めて困難だったが、デジタルにすることで、データを削除・失効することが可能になった。これにより同社の社員証紛失時のリスクが軽減された。

同社がテレワークへの移行とともに業務プロセスの変革が起き始めている社員を対象に実施した「生産性」に関する満足度調査では、「満足している」と回答した社員が2018年は46.0%だったのに対し、実証実験後の2020年12月は54%と約10ポイント上昇したという。

川田氏は「無駄を省いて本来の業務に打ち込める環境をつくることで、従業員のパフォーマンスの向上につながる」と語る。NTT Comは今後も、業務内に存在するあらゆる無駄に着目し、スマートな働き方を模索し続ける。