東京大学(東大)は、大規模な計算も最小規模の光回路で効率よく実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の心臓部となる独自の光量子プロセッサの開発に成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 工学系研究科 物理工学専攻の武田俊太郎准教授、同・榎本雄太郎助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会(AAAS)の学際的なオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
量子コンピュータの実用に向け、さまざまな方式が検討されているが、その中の1つに光を用いた光量子コンピュータがある。光を用いるため、常温ならびに大気中で動作することが可能、かつ光を用いた量子通信との相性が良い、高速な計算処理(高クロック動作)が可能であるといったメリットがある。
2017年9月、武田准教授(当時は助教)らは、どれほど大規模な計算も最小規模の光回路で効率よく実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式として、多数の光パルスを時間的に一列に並べて、それらが1個の万能な計算回路(光量子プロセッサ)を何度もループする構造を考案。これにより、大規模な計算でも最小規模の回路で実行できる可能性を示していた。
そこで武田准教授らの研究チームは今回、この研究をさらに進展させる形で、情報を持つ光パルスを回路に取り込む入力用光スイッチと、光パルスの測定値に応じて別の光パルスを操作するシステムを新たに組み込み、これらの構成要素を時間同期しながら切り替える制御システムを構築することで、光量子プロセッサ回路を完成させたという。
また、実際に情報を載せた1個の光パルスにさまざまな計算を複数ステップ実行できることを示し、従来の回路にない汎用性と拡張性を兼ね備えた万能な動作ができることの検証を実施。具体的には、量子コンピュータに必要な計算5種類のうち4種類が、同じ回路構成のまま実行できることが実験的に確かめられたとするほか、もう1種類の計算も特殊な補助光パルスを入力すれば実行できることが理論的に示されたとする。さらに、(1)2つの光パルスの間の量子もつれの合成、(2)片方の光パルスの測定、(3)もう片方の光パルスへの操作、という一連の手順を繰り返すことで、最大3ステップの計算まで実行できることも確認し、原理的には、1個の光量子プロセッサを繰り返し用いることで、さまざまな計算を無制限に何ステップでも続けることが可能であることを示したとする。
今回のポイントは、「計算の種類の切り替えが可能」で「何ステップも繰り返し計算可能」という新しい機能を持つ計算回路(光量子プロセッサ)を実現したことにあると研究チームでは説明しているほか、量子コンピュータのみならず、さまざまな光量子技術へ組み込むことのできる高い応用性も併せ持つともしている。
今回の成果について研究チームでは、日本発のアイデアである「究極の大規模光量子コンピュータ」の実現を大きく前進させるものだとしており、今後、今回の光量子プロセッサを多数の光パルスがループする構造を開発することができれば、さまざまな計算を無制限に何ステップでも続けられることになり、最小回路で量子コンピューティングが実行できるようになるとしている。
そのため今後は、技術開発をさらに進め、多数の光パルスに無制限に何ステップでも計算が実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の完成を目指すとしているほか、今回の技術のさまざまな分野への応用可能性について検討を進めていくとしている。