9月28日・29日、「ビジネス×動画」をテーマにしたオンラインイベント「VHS VIDEO HELPS SOCIETY」が開催されました。同イベントは、「動画制作・動画広告・動画テクノロジー」の3つをテーマに、VHS実行委員会とブライトコーブを中心とした協賛企業8社によって企画・運営されました。

本稿では同イベントにおいて、農林水産省職員自らがYouTuberとして農林水産物の魅力を発信するプロジェクト「BUZZ MAFF(ばずまふ)」の責任者である農林水産省 広報室長の安川 徹氏とLOCUS代表の瀧 良太氏によるセッションの模様を紹介します。

登壇者プロフィール

安川 徹氏(農林水産省 広報室長)
2003年に博報堂に入社後、クリエイティブ、PR部門などに所属。2014年には番組ディレクターとしてNHKに出向。広告、PR、メディアプランなどのコミュニケーション領域だけでなく、販売戦略や商品ラインナップ戦略に至るまで大手広告会社のPR部門にしかできないPR発想の“効くマーケティング施策”を立案・実施。2019年に初の民間出身の広報室長として、農林水産省に出向し現在に至る。

瀧 良太氏(LOCUS代表)
「動画がビジネスを動かす」をビジョンに、1,700社ほどの動画制作および広告活用支援を行う。農林水産省をはじめ、大手企業からベンチャー企業まで幅広いクライアントを支援。800名のフリーランスと共にYouTubeチャンネルの立ち上げから制作、広告まで幅広いジャンルを年間1,500本ほど担う。

  • 左から、LOCUS代表 瀧良太氏、農林水産省 広報室長 安川徹氏

農林水産省公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF」とは

「国産の農林水産物や農山漁村の魅力を国民に広く知ってほしい」という思いから立ち上がった、農林水産省の公式YouTubeチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」。撮影から編集、アップロードまで一連の流れを農林水産省の職員自らが担っています。

これまで、大臣会見を宮崎弁でアフレコした動画やコロナ禍において需要が落ち込んだ花の消費拡大をユーモア満載で呼びかける動画が注目されています。メディアでも話題になっているBUZZ MAFFを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

安川氏は、「農林水産省に限らず、役所の広報は堅いことで有名でした。そんな中、『この状況をなんとかしたい』と江藤農林水産大臣が就任。『こんな堅い広報じゃ誰も見てくれないだろう』と、YouTubeやTwitterなどのSNSを通した発信に力を入れるようになりました」と説明しました。

運用体制は、「大臣をはじめとした霞が関の本省に勤める職員の他に、地方農政局や農政事務所で『YouTube配信をやってみたい』ということで募った職員を含め、全国で動画制作をしています。基本的には、企画からチェックまですべて職員に任せています。初めの頃は、取材許可の取り方や2次利用の許可について知らない人が多かったので、広報室で企画のチェックをしていましたが、今は基本的に中身を確認することはありません」(安川氏)とのこと。

お役所のYouTubeとなると、企画に厳密なルールがあるのか、気になるところです。安川氏は、「BUZZ MAFFの企画のポイントは2つだけ。最大の柱は、国産の農林水産物や農山漁村の魅力を発信すること。もう一つは、公務員として不適切な表現や内容を発信しないこと。あまり制約はしたくないので、積極的にやってもらっています」と語っていました。

BUZZ MAFFでは、大臣のアフレコ動画や官舎でのモーニングルーティーンなどお堅いイメージが変わるような動画もアップされ、コメント欄にはポジティブなコメントが多く寄せられています。

「モーニングルーティーンの動画も、すごくきれいなワンルームマンションやものすごくおしゃれで素敵な部屋だったら多分炎上したと思います。国家公務員の住んでいるところが昭和感あふれる住宅だったことが逆に親近感につながっているのかもしれません」(安川氏)

  • BUZZ MAFFの「花いっぱいプロジェクト」の動画の一部。男性2人がたくさんの花に囲まれている様子は少しシュールかも!?

伝えるべきことを真摯に届ける

官公庁でありながら、良い意味で緩さもあるBUZZ MAFF。省内のチェック体制はどのようになっているのでしょうか。その点について、安川氏は、「名目上、思いついた企画に対して検閲をかけることはありません。しかし、著作権上の問題がないか、社会的弱者の方を攻撃するような内容がないかの事後チェックはしています。LOCUSさんには、立ち上げのときにその辺りの二重チェックをお願いしていました」と、説明していました。

メディアでも話題になった「大臣にアフレコしてみた。」という大臣会見に宮崎弁でアフレコをする動画。大臣に承諾を取ったのは動画を出した後だったそうです。

「動画を出したと同時に『出ています』という形で承諾を取りに行きました。ドキドキではありましたが、大臣からは『自分を好きに使っていいよ』という言葉をいただいていたので、額面通りに受け取りました。伝えるべき内容を伝わりやすい形で、心にスッと入ってくる動画を作るようにしています」(安川氏)

企画のチェックも職員に任せている中で、炎上などのリスク対策については「『慣れるしかない』という感じ」と、安川氏はいいます。同氏は、さらに次のようにせつめいしていました。

「政策と逆のことや、批判が出ているものなど、ネタを投げかけたら議論が噴出するとわかっているものは、細心の注意を払っています。その他、国会でまだ法案になっていない審議中の内容をYouTubeで先に出してしまうことは、国会軽視にもなりかねないので注意しています。

逆にそこさえ注意すれば、基本的に大問題にはなりません。最近強調しているのは炎上するポイントを避けるのではなく、視聴者や国民に好印象を持って迎えられているか、好かれているか、応援されているかを意識しながらやっていくこと。そうすれば、仮に炎上しかけてもファンの方々が守ってくれると発信者には伝えるようにしています。

また、動画発信を始めた当初はいわゆる一般的なYouTuberと比較して面白い発信者はほとんどいませんでした。しかし、初めから『面白い』で立ち上がりすぎてしまうと、逆に批判を浴びることもあるので、初めは『官僚、こんなもんね。かわいいね』みたいな感じでやっていました。狙っていた訳ではありませんが、やっていくうちに盛り上がっていきました」