東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤 准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」は11月4日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の注意すべき変異株の1つである「ミュー株(B.1.621系統)」が、新型コロナ感染者ならびにワクチン接種者の血清に含まれる中和抗体に対し、高い抵抗性を示すことを確認したと発表した。

同成果は、東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤佳 准教授、同 瓜生慧也 大学院生、同 木村出海 大学院生(日本学術振興会特別研究員DC1)、京都大学大学院医学研究科 内科学講座血液・腫瘍内科学の白川康太郎 助教、同 高折晃史 教授、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学の中田孝明 教授、千葉大学大学院医学研究院 分子腫瘍学の金田篤志 教授、東海大学医学部 基礎医学系 分子生命科学の中川草 講師らによるもの。詳細は11月3日付(米国時間)で「New England Journal of Medicine オンライン版」に掲載された。

新型コロナの世界的な感染拡大はいまだに終息しておらず、またウイルスの感染病態の原理やウイルスの複製原理、免疫逃避と流行動態の関連など、よく分かっていないことも多い。変異株も次々と確認されており、ベータ株(B.1.351系統)やガンマ株(P.1系統)などの新型コロナの「懸念される変異株(VOC:variant of concern)」については、中和抗体が働かない可能性が懸念されている。

ミュー株は「注目すべき変異株(VOI:variant of interest)」に位置づけられている変異株で、今回の研究はこのミュー株を対象に、同株のスパイクタンパク質を有する疑似ウイルスと、従来株の新型コロナに感染した人の回復後の血清(13人分)、および、ファイザー/ビオンテック製ワクチンを2回接種した人の血清(14人分)を用いた中和試験を実施。その結果、ミュー株は、従来株に比して、感染者が持つ中和抗体に対して10.6倍、ワクチン接種者の有する中和抗体に対しても9.1倍という高い抵抗性を示すことが確認されたという。

この値は、懸念される変異株の1つであるベータ株よりも高い抵抗性であるという。ただし、研究チームによると、この結果がそのまま「ワクチンが効かない」ことを短絡的に意味するものではないことに注意する必要があるとする。

ワクチン接種は、血液中に中和抗体を産生させることだけではなく、細胞性免疫や免疫の記憶を構築することにより、複合的に免疫力を獲得することを目的に行われるものであり、中和抗体が充分な効果を発揮できないとしても、ワクチン接種による感染予防効果、重症化を防ぐ効果は、ミュー株に対しても充分に発揮されるものと思われると研究チームでは説明している。

なお、G2P-Japanでは現在、さまざまな変異株の中和抗体への感受性や病原性についての研究に取り組んでいるとしており、今後も新型コロナの変異(genotype)の早期捕捉や、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(phenotype)を明らかにするための研究を進めていくとしている。