ナイスジャパン、Zendesk、アイティフォーは11月2日、「地方自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)、コロナ禍で見えてきた課題と解決」をテーマにメディアセミナーを開催した。コンタクトセンターなどのカスタマーサポートを中心として、個別の事例を交えながら各社の取り組みを紹介した。
地方行政におけるDXの取り組みの現状
デジタル庁が打ち出している5本の大きな柱の一つに、「徹底したUI(ユーザーインタフェース)・UX(ユーザーエクスペリエンス)/国民向けサービスの実現」がある。これを受けて、多くの地方自治体が住民サービスのオンライン化やデジタル化を優先事項として取り組み始めている。
クラウド型のCX(カスタマーエクスペリエンス)プラットフォームである「CXone」を提供するナイスジャパンは、これまでに人口5万人以上の市において、IT推進課やDX推進課、総務課など住民からの問い合わせ業務に対応する担当者と対話を実施してきたという。
こうした同社の活動を通じて、地方自治体におけるIT導入の課題は、「コンタクトセンターの仕組みを知らない」「業務量や業務状況を可視化する仕組みを持っていない」「ナレッジマネジメントの仕組みが不足している」「ITリテラシーがばらついている」「データ活用についての意識が低い」「IT導入が難しい」の6点に大別できることが明らかになったとのことだ。
これらの課題を受けて、ナイスジャパンの社長である安藤竜一氏は、地方自治体のDXを推進するために必要な要素として、「柔軟性」「即時性」「全包囲型向上」の3点を挙げた。これらについて、同氏は「システムの導入に伴うコストを下げるだけではなく、住民と自治体職員の両者がメリットを享受できるビジョンが不可欠であるという意味で、全包囲型向上が必要と考えている」と説明した。
さらに、「現代は、クラウド技術によって即時性のある市政を提供できる時代である。当社が提供する複数のクラウドサービスを組み合わせて、今後も地方行政のDXを推進したい」と続けた。
Zendeskで問い合わせ対応をデジタル化した岐阜県恵那市
Zendeskの社長である冨永健氏は、同社のサービスを利用した自治体DXの成功例として、岐阜県恵那市を紹介した。同社が提供する「Zendesk」は、メールや電話といった複数チャネルからの問い合わせを一元化して、庁内でのタスクの対応状況や進行履歴の管理を支援するソリューションである。
恵那市では電話やメールに加えて、市の公式アプリ、広報直通便はがき、市のWebサイトなど、複数の問い合わせチャネルを設けている。以前は問い合わせをExcelで管理していたため、手入力による手間が発生する上、対応の進捗状況を把握しにくく、回答の抜け漏れが生じることがあったという。また、担当者に確認が取れないことで、回答までに時間を要するといった課題も抱えていたとのことだ。
こうした背景を受けて同市では、問い合わせ対応のタスクを一元管理可能なソフトウェアを検討し、「Zendesk」の導入に至ったという。Zendeskの導入により、問い合わせ対応の進行管理を効率化でき、無駄な作業を削減するとともに対応の抜け漏れもなくなった。さらに、関係者とのリアルタイムな情報共有が可能となったため、回答までの時間短縮と回答の精度向上を達成したとのことだ。
「Zendeskの導入による最大の効果は、市民とのコミュニケーションが円滑になったことと聞いている。同じ人から異なる窓口に問い合わせがあった場合でも、過去の問い合わせを迅速に参照できるようになったため、質の高い応対によって情報を提供できているようだ」(冨永氏)
クラウドサービスを利用した民間業務委託の事例
続けて、アイティフォーの執行役員を務める小林研司氏が、税や国民健康保険料の滞納整理業務を例として、同社が提供するクラウドサービスを利用した受託業務の事例を紹介した。
地方自治体が実施する滞納整理業務においては、職員数の不足や、窓口対応に時間を取られるといった理由から、徴収が計画通りに進まない課題があるという。そこで同社では、ICTを活用することで業務の効率化を図り、民間委託を活用した課題解決を提案している。同社が提供するICTと業務委託により、地方自治体職員が本来の業務に専念できる環境を構築して、収納率の向上に寄与するとのことだ。
同社は「電話催告システム」「SMS送信システム」「訪問業務システム」の3種の催告業務システムによって業務委託を実施する。「電話催告システム」は滞納者の電話番号を管理しており、催告をしなければならない対象者の抽出を実施する。複数の電話番号を登録可能であり、架電に成功した電話番号の管理や、過去に通話できた時間帯などを基にしたヒット予測機能により、通話率の向上に貢献するシステムである。
一方で、近年は電話に出ない滞納者の割合が増加していることから、「SMS送信システム」による納税催告も行う。過去に3回以上の電話発信に応答しなかった人に対してSMSを送信すると、約3割の応答があったとのことだ。また、「訪問業務システム」では、通信可能なタブレット端末を活用することで、直行直帰が可能な訪問業務を実現する。訪問者リストから最適なルートを自動生成する機能や、各訪問員の現在位置を把握可能な機能を備える。