国立感染症研究所(NIID)は11月1日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株やSARSコロナウイルスなどといったさまざまなコロナウイルスに広く有効な新しいヒト抗体を単離して、構造決定および病理評価を行うことに成功し、その高い中和活性と交差反応性のメカニズムを解明したと発表した。

同成果は、NIID 治療薬・ワクチン開発研究センターの小野寺大志主任研究官、北海道大学の前仲勝実教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫学を扱う学術誌「Immunity」に掲載された。

今回の研究では、完全型ヒト抗体を作る「TC-mAbマウス」から、SARS-CoV-2に対して強い中和活性を有し、変異株やそのほかのコロナウイルスも中和できる抗体「NT-193」を単離することに成功したほか、このNT-193抗体は、定常領域が「IgG3タイプ」であることにより、中和活性を増強するユニークな抗体であることがわかったという。

また、IgG3タイプのNT-193抗体はほかのSARS類縁コロナウイルスに対しても強い中和活性を示すことも確認。広くSARS類縁ウイルスに対して有効な抗体であることが示唆されたとする。

NT-193抗体は、ヒト細胞に侵入する際に「鍵」として使用すると例えられるウイルス表面のスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)と高い結合活性を示すことが判明。NT-193とRBDとの複合体の立体構造をX線結晶構造解析で調査したところ、鍵穴に例えられるヒト細胞の受容体「ACE2」の結合領域と、コロナウイルスの保存性の高い領域のどちらも、そのほぼすべてを認識する抗体であることが特定されたほか、それぞれの領域が中和活性とコロナウイルス交差反応性に寄与することも明らかになったという。

なお、ハムスターを用いた感染実験からは、これまでに臨床応用されている抗体医薬品と比較して、遜色のない優れた予防・治療効果を示すことも確認したとしている。

  • 新型コロナ

    今回の研究の概要。NT-193抗体はRBDと高い結合活性を示すことが判明した (出所:NIID Webサイト)