旭川医科大学(旭川医大)と北海道大学(北大)は10月19日、貪食能を保持した抗原提示細胞を末梢からがん組織に呼び寄せる免疫活性化剤「cGAMP」と、がん細胞が抗原提示細胞の貪食能を抑制するために分泌する「CD47」を無効化できる「抗CD47抗体」を、同時に乳がんモデルマウスに投与したところ、がん特異的免疫応答を効果的に誘導することに成功したと共同で発表した。
同成果は、旭川医大 病理学講座 免疫病理分野の小坂朱講師、同・大栗敬幸准教授、同・小林博也教授、北大 遺伝子病制御研究所の北村秀光准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫学、神経科学、がん、微生物なども扱う薬学に関する学術誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載された。
がんの治療法として、免疫反応を利用したがん免疫治療法が期待されているが、がん細胞に対する免疫応答を誘導するには、抗原提示細胞ががん細胞の情報をT細胞に効率よく伝える必要がある。
仕組みとしては、抗原提示細胞ががん細胞を貪食して消化し、がん細胞の一部をペプチド断片としてアンテナ(主要組織適合抗原:MHC)に提示し、T細胞を活性化させるというものだが、がん細胞自身が抗原提示細胞の貪食機能を直接抑える分子「CD47」を過剰に発現することで、抗原提示細胞に貪食されないように防御する貪食抑制機構を有しており、抗原提示細胞の貪食能が低下してしまうという課題があったという。
一方、核酸誘導体であるcGAMPは、細胞内小器官である小胞体に局在するタンパク質の「STING」を介し、I型インターフェロンなどの炎症性サイトカインを誘導して免疫を活性化することが知られており、これまで研究チームでも、がん組織にcGAMPを直接投与することによって、抗原提示細胞の活性化マクロファージがSTING依存的にがん組織内に浸潤することを報告している。
そこで今回の研究では、その知見を応用し、がん細胞の免疫逃避の打破を目的に、cGAMPと抗CD47抗体を乳がんマウスモデルのがん組織に同時投与する実験を実施。その結果、抗CD47抗体ががん細胞の貪食抑制機構を抑制し、能力が抑制されなくなった抗原提示細胞ががん細胞を効率的に貪食し、最終的にがん特異的免疫応答を効果的に誘導することが可能であることが示されたという。
また、今回の研究からは乳がん組織におけるCD47の発現が高い患者の生命予後が悪いことも明らかになっており、今後のがん細胞の貪食抑制機構を標的としたがん免疫治療法の臨床応用が期待されると研究チームではコメントしている。